『猫エイズ』
猫の飼い主はこの病気の名前を聞いたことがあると思います。
でも知っていますか?
『猫エイズ』は人には感染しません。
猫同士でどうやって感染するの?
どんな病気なの?
今回は『猫エイズ』について勉強しましょう。
もくじ
猫エイズとは
猫エイズという病名は多くの方が知っています。
正確には『猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症』です。
この猫免疫不全ウイルス(FIV)は1986年にアメリカで初めて分離されたウイルスで、現在、日本を含む世界中で流行しています。
FIVの特徴としては、猫から排出されたウイルスは弱いということです。
室温では数分から数時間で感染性を失い、アルコールや洗剤などの消毒薬で簡単に死滅します。
FIVは猫科動物の多くが感受性ですが、人には感染しません。
室内と外を自由に行き来する猫の感染率は15〜30%とされています。
そのため、外に行くことのできる猫の感染危険率は室内猫の20倍と言われています。
さらに、オス猫はメス猫と比べると感染率が2倍高いとされています。
日本における感染率
2008年の全国47都道府県での調査では、最低週に1回は外に行く1770頭の猫の23.2%がFIVに感染していた。また、FIVウイルスにA,B,C,Dの4つのサブタイプが確認された。
J.Vet.Med.Sci.72:1051-1056.2010
かなり高いですね。
主な感染経路は咬傷
外で猫がケンカしているのを見たことありませんか?
FIVの主な感染経路は咬傷による直接伝播です。
外に出てケンカすることで感染します!!!
唾液中に含まれるウイルスが傷から侵入することで感染するんです。
症状
FIVに感染してもすぐには症状は見られません。
一般的には数年間症状が出ず、中には一生症状が出ない猫もいます。
急性期
(Acute phase:AP)
この期間は感染後、数週間から約4ヶ月間持続すると考えられていて、発熱やリンパ節腫大、白血球減少、貧血、下痢などが見られます。
感染した体内で少しずつFIVに対する抗体ができますが、
4〜8週間でFIVに対する抗体が陽性と判定できるようになります。
でも、ケンカした際は怪我をしていたり、細菌感染をしている事が多いので病院で診察してもらいましょう。
無症候キャリアー期
(Asymtomatic carrier:AC)
何の症状もない期間が数ヶ月から数年(平均2〜4年)続きます。
このキャリアーから発病するものは年間で約18%とされています。
持続性リンパ節腫大期
(Persistent generalized lymphadenopathy:PGL)
この時期も症状としは分かりづらく、家で過ごしているだけでは分からない事があります。
たまたまこの時期に病院で診察を受けると、全身のリンパ節が腫れていることに気づくかもしれません。
口内炎や歯肉炎、上部気道炎、慢性鼻炎、慢性腎臓病、原因不明熱などが症状として出てくる事があります。
後天性免疫不全症候群期
(Acquired immunodeficiency syndrome:AIDS)
免疫不全が起こることから様々な日和見感染症が見られます。
貧血や白血球・血小板の減少、神経症状をみることがあります。
さらにFIV感染では腫瘍の発生率が増加すると言われています。
診断
一般的には血液検査を行い、血液中の抗体を検出する事で診断が可能です。
これには院内簡易検査キットというものがあるので、それほど検査時間もかかりません。
検査するタイミングが大事
陰性でも再検査
先ほど言ったように、
感染してもすぐには検査で陽性とはなりません。
抗体が産生されるまでの期間として1〜2ヶ月と言われています。
それまでは検査で陰性となる事があります。
感染の可能性がある猫では検査で陰性となっても、6〜8週間後にもう一度検査する必要があります。
陽性でも再検査
6ヶ月未満の子猫でも検査の判定に注意が必要です。
母猫がFIVに感染している場合、子猫にはFIVに対する移行抗体があります。
このため検査をしても実際にFIVに感染していないにも関わらず、抗体陽性となってしまいます。
移行抗体は生後12週齢(生後3ヶ月)程度まで残ると言われています。
(最長6ヶ月持続するとも言われている)
子猫の場合は結果が陽性となっても移行抗体を考慮して、生後6ヶ月以上になってから再検査が必要になります。
『抗体陽性』、本当に感染している?
今言ったように検査のタイミングを注意すれば
『陽性』結果をみて『FIV感染』と診断したいところです。
でも、もう一つ考慮しないといけない事があります。
それは、FIVワクチンです。
2008年から日本でもFIVワクチンが使用されています。
ワクチン摂取すると、抗体が産生されるために抗体検査では抗体陽性となります。
迷い猫・野良猫を保護して、
病院での抗体検査がFIV陽性となった場合、
1.FIVに感染している
2.FIVワクチンを接種した事がある
のどちらの可能性もあります。
PCR検査
ワクチン接種が不明でFIV抗体陽性の猫
ワクチンを接種しているのに感染が疑われる猫
このような猫ではPCR検査が必要になります。
PCR検査は抗原検査でワクチン接種による抗体の影響を受けずに診断が可能になります。
治療
今のところ、FIV感染症に対しての抗ウイルス治療で有効なものはありません。
口内炎、歯肉炎などでは抗炎症剤や2次感染予防のための抗生物質治療になります。
さらに免疫不全から生じる病気に対しては対症療法が行われます。
FIVワクチン
FIVウイルスに様々なサブタイプがありますが、ワクチンにはその1部のサブタイプしか含有されていません。含まれていないサブタイプのFIVに効果があるかは不明です。
ワクチンを接種してもFIV感染を完全に防御できるわけではありません。
最高の予防はFIV感染猫との接触を避けることです。
家でできること
予防としてはFIV感染猫との接触を避けることが最大の予防になります。
そのためには
室内飼育、外に出さないことです。
FIVに感染してしまったら
多くの猫がすぐに発症するわけではありません。
長期間、場合によっては一生発症しないこともあります。
同居猫がいる場合は全員のFIV感染状態を調べておいてください。
同居猫間で社会的な位置関係が確率している場合、ケンカのリスクは少ないので隔離する必要はありません。
発症にはストレスが大きく関わっていると思われるので、
ストレスフリーの生活
をさせてあげることが良いと思います。
安心できる場所を作ってあげてストレスフリー
家の中でも大好きな場所・安心できる場所を作ってあげてください。
いくつも作ってもらって構いません。
猫は柔らかくて暖かいところが好きです。ふかふかベッドを用意してあげましょう。
隠れ家を作ってあげるとさらにいいと思います。
窓の外を眺めるのが好きな猫もいます。窓辺にもベッドを用意してあげるようにしましょう。
ただし、外に野良猫などが来て緊張してしまう猫や不安になる場合は目隠しを作ってあげるようにした方が良いです。
疾患を早期に発見するために、少なくとも年に2回は健康診断を受けましょう。
- FIVは日本でも広く流行している
- FIVは人には感染しない
- 抗ウイルス治療で有効なものはない
- FIV感染猫と接触させないことが最大の予防
- FIV感染があっても発症しない猫もいる