『フィラリア症』は蚊に刺されて起こる病気です。
犬の病気としてご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
フィラリア症は『犬糸状虫症』とも言います。
猫でも絶対にフィラリア症予防が必要です‼️
今回は猫のフィラリア症についての勉強です。
突然死の報告もある恐ろしい猫のフィラリア症
家でできる簡単なこと
についてお話しします。
もくじ
症状
もともとは犬に寄生するフィラリア
フィラリア・犬糸状虫はもともと犬に寄生する寄生虫ですが、犬以外の動物でも感染します。
本来の寄生動物である犬であればフィラリアは肺動脈(心臓)に寄生します。
犬以外の動物では、異所寄生・迷入ということが起きるためにフィラリアの幼虫が眼や脳、腎臓などに入り込んでしまうことがあります。
そのため失明したり、発作が起きるなど犬で見られる症状とは違った症状を起こすことがあります。
犬糸状虫は犬以外の種々の動物種にも、偶発感染ではあるが、自然感染することが知られていて、猫科、海獣類、クマ類、類人猿、人、馬、鹿、ウサギ、さらにはペンギンなど実に多様な動物種から検出されている。
【日獣会誌 66 281〜291(2013)】
実はフィラリアは犬・猫だけでなく多くの動物にも感染することがあります。
動物園の動物もフィラリア予防をしています。
水族館でもアシカやアザラシがフィラリア予防をしています。
フィラリアって?
犬フィラリア・犬糸状虫は成虫で約30cmもの長さになる寄生虫で肺動脈(心臓)に寄生します。
猫に寄生したフィラリア成虫は2〜4年生存(犬では5〜7年生存)するとされています。
この寄生虫が感染するのには蚊が重要な役割を果たします。
フィラリアに感染した犬の血液虫には『ミクロフィラリア』と呼ばれるフィラリアの幼虫が流れています。蚊が犬から吸血する際にこのミクロフィラリアも一緒に吸い込みます。
蚊の体内に入ったミクロフィラリアは感染幼虫(L3)と呼ばれる状態まで成長します
この感染幼虫(L3)を持った蚊が猫の吸血をする際に、猫の体内に侵入します。
猫の体内に侵入した感染幼虫(L3)は、
皮膚の下(皮下、脂肪、筋肉など)で2回の脱皮を繰り返し、
約2ヶ月間成長を続けL3→L4→L5まで成長します。
皮膚の下で成長したL5(第5期幼虫)は、
血管内に入り込み血流に乗って心臓や肺の血管を目指して流れていきます。
最終寄生場所の肺動脈にたどり着くと成虫になります。
猫のフィラリア症の症状
感染をした28%の猫で無症状であったとの報告がありますが、
咳や呼吸困難、嘔吐などの症状が比較的多いとされています。
先ほど言ったように、フィラリア幼虫の迷入による失明や痙攣も稀にあります。
数匹のフィラリアの感染でも突然死をした猫の報告もあり怖い病気です。
- 無症状
- 咳・呼吸困難
- 嘔吐
- 食欲不振
- 体重減少
- 失明
- 痙攣
- 突然死
猫の体内に入ったフィラリア(L3)は、数日でL4と呼ばれる幼虫に成長します。
L4は約2ヶ月皮膚の下(脂肪、筋肉など)で成長を続けL5幼虫になります。
L5幼虫になるといよいよ血管の中に侵入を始め、肺動脈を目指します。
猫にはPIM(肺血管内マクロファージ)という特殊なお掃除屋さんがいます。
フィラリアが肺動脈に移動して来ると、
このPIMが活性化して肺動脈や肺組織に激しい炎症を起こします。
このために喘息やアレルギー性気管支炎のような呼吸器症状をみせます(場合によって嘔吐も)。
これを
犬糸状虫随伴呼吸器疾患
(HARD:heartworm associated respiratory disease)
と呼んでいます。L5幼虫が肺動脈に寄生を始める感染後3〜4ヶ月で発症されるとされています。
犬に比べるとフィラリアが成虫になってしまう確率は低いとされているのは、この炎症によってフィラリアがやっつけられてしまうためです。
また、肺動脈に寄生していた成虫が死んでしまった場合は、死んでしまったフィラリアやその一部が肺動脈に詰まって塞栓症を起こしたり、激しい炎症をおこします。この際に急性肺障害を起こして突然死をしてしまうことがあります。
これを乗り越えても肺に大きなダメージが残るため慢性的な呼吸器症状が続きます。
診断
犬の場合にはミクロフィラリア検査+抗原検査でほとんど診断がつきます。
しかし、
猫では診断が難しい。。。
様々な検査を組み合わせる必要があります。
猫のフィラリア感染は犬よりも診断が難しく、見落とされる可能性があります。
そのために複数の診断検査が必要になり、何度か繰り返す必要があるかもしれません。【American Hertworm Society: 2014 Feline Heartworm Guidelines 】
抗体検査
抗体検査は第4期幼虫(L4)の抗体を検出する検査です。
この検査では感染猫の約20%が陰性を示すとされています。
フィラリア感染を疑う猫では、
フィラリアがすでにL5期幼虫や成虫になってしまっているために症状が出ていると思われます。
そうすると、L4期幼虫を検出するこの検査ではほとんど陰性になるのではないかと思います。
さらに、陽性であった場合もL4期幼虫への抗体が確認できますが、現症状がフィラリアによるものかを確定するもではないため、結果の解釈には注意が必要です。
抗原検査
フィラリア成虫のメスの抗原を検出できる検査です。
オスの成虫が多数寄生している場合にも検出されることがあります。
猫ではほとんどがフィラリアが少数しか成虫になれないために検出感度が低いとされています。
ミクロフィラリア検査
顕微鏡で血液中のミクロフィラリアを検出する検査です。
フィラリア成虫が少数しかいないこと、オスだけ、メスだけといった単性寄生の事が多くミクロフィラリアは滅多に出てくることはありません。
さらに、犬の血液中ではミクロフィラリアは1〜2年生きているとされていますが、猫の場合はあまり長く生きていられません。
レントゲン検査
フィラリア自体がレントゲンで見えるわけではありません。
胸部レントゲン検査では、肺・気管・気管支の変化や肺動脈の変化を確認できます。
超音波検査
肺動脈・心臓に寄生したフィラリア成虫を確認する検査です。
フィラリアが少数しか寄生していないためなかなか見つけにくい事があります。
猫
年齢:8ヶ月
主訴:呼吸促迫
検査:犬糸状虫抗原検査(−)
犬糸状虫抗体検査(−)
超音波検査:フィラリア虫体は検出されず
痙攣発作があったためMRI検査を行うも異常所見なし
死後、病理解剖でフィラリア症であった事が確認された。
【日獣会誌;70,109〜113(2017)】
本当に恐ろしい病気です。
治療
残念ながら、治療法が確立されていません。
手術で成虫を摘出するのは困難です。
また、成虫の内科的駆虫は推奨できません。
駆虫することで一気に死滅した虫が肺動脈に詰まってしまうことで、肺動脈塞栓症を起こします。
また、急激に死滅した虫に対して過剰な免疫反応が起き急性炎症が起きてしまうからです。
対症療法
猫のフィラリア症の治療は対症療法になります。
症状に対して治療を行うことです。
抗炎症薬、気管支拡張剤、酸素吸入、点滴などを行い症状緩和に努めます。
猫に寄生したフィラリア成虫は約2〜4年生きるとされています。
対症療法を行いフィラリアがいなくなるのを耐え忍ぶ事になります。
家でできる簡単なこと
めったに感染しないんでしょ?
こんな質問をよく受けます。
10頭に1頭がフィラリアの幼虫に感染している
と報告があります。
この質問も多いですね。
感染した猫の約4割が室内飼育だった
との報告があります。
家でできる簡単な事・猫を守る‼️
家でできる簡単な事
と言うより
家でやるべき簡単な事
ですね。
これは何かと言うと、
1ヶ月に1回の予防
です。
それほど多くない病気かもしれませんが、なってしまうと突然死のリスクがあります。
良い治療も確立されていません。
そうであれば、病気にさせなければいいのです。
現在は予防薬を1ヶ月に1回投与すればフィラリア症を防げます。
家族である猫を守る絶対にやるべき簡単な事だと思います。
予防薬は背中に垂らす滴下剤です。
予防は少なくとも5月から12月まで
5月位から蚊が飛び始めます。
蚊に刺されて猫の体内に侵入したフィラリアは約2ヶ月間皮膚の下で成長を続けます。
フィラリア予防薬はこの2ヶ月間の段階の幼虫(L3、L4)を殺滅します。
血管の中に侵入してしまう頃の幼虫(L5)や成虫には効果がありません。
ですから、5月から予防が必要になります。
(遅くなるとフィラリアを駆虫できなくなります)
フィラリアの感染期間終了は例えば東京では11月上旬までとされています。
L4期幼虫を駆虫するためには12月まで予防薬を投与する必要があります。
アメリカのガイドラインでは
通年予防(1年中予防)を推奨しています。
- 猫もフィラリア症になる
- 突然死のリスクがある
- 猫を守るために毎月の予防をする‼️
- 予防は通年予防が理想的
(少なくとも5月〜12月)