嘔吐・下痢という症状は動物病院では毎日のように診察しています。
その中には”膵炎”と診断するケースもあります。
この病名を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?
今日は犬の膵炎(特に急性膵炎)に関する勉強です。
もくじ
膵臓って何をやってるところ?
膵臓の2つの機能
犬の膵臓は体重の約0.2%ほどの重量で、V字型でその右側は胃の出口から十二指腸に沿って左側は胃の後ろ側で脾臓の方へと存在しています。
膵臓の機能は大きく分けて2つあります。
その1つは、外分泌機能です。膵臓の容積の80%は外分泌腺が占めているとされています。外分泌機能というのは分かりやすく言うと消化のための機能です。
- トリプシノゲンを分泌し、そこから変換したトリプシンがタンパク質を分解する
- アミラーゼを分泌(犬・猫の活性は非常に低い)し、炭水化物を分解する
- 胆汁酸によって乳化された脂肪をリパーゼなどの脂質分解酵素で分解する
さらには、pH調整機能があります。十二指腸には胃から酸性の内容物が流れてきます。それを重炭酸イオンで中和して腸粘膜の保護や、腸で働く酵素が働きやすくする役割をしています。
もう1つの機能は内分泌機能です。この機能は主にインスリン分泌とグルカゴン分泌になります。
簡単に言うとインスリンは血糖値を下げる作用、グルカゴンは血糖値を上げる作用といった機能があります。
膵炎とは
膵炎とは膵臓の炎症のことです。膵炎にも急性膵炎と慢性膵炎がありますが、急性膵炎は主に好中球(白血球の1つ)の浸潤を伴う膵臓の壊死・膵臓周囲の脂肪壊死が起こります。慢性膵炎では膵臓の線維化と腺房萎縮が起こります。
あのー。難しいんですけど。。。
膵炎になりやすい犬種はいるの?
ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャー・テリアをはじめとするテリア種で急性膵炎が多い傾向にあります。
膵炎の原因は?
さまざまな病気や薬、病態などが危険因子として考えられていますが、直接的な膵炎の原因は未だに不明です。
人では膵炎の原因として胆石、アルコール、特発性が多いとされていますが、
犬では特発性が多いとされています。
脂肪は最も強力な膵外分泌刺激作用を持っており、高脂血症・高脂肪食は膵炎の危険因子として知られています。M・シュナウザーは高脂血症が好発し、膵炎の発生が多いことも知られています。
以前はステロイド(グルココルチコイド)が膵炎と関連しているとされていましたが、最近では危険因子としてはあまり考えられていません。
膵炎の症状
主な症状は、食欲不振、嘔吐、悪心、流涎です。
また約50%で腹痛も伴うために俗にいう『祈りの姿勢』をとることがあります。
急性膵炎では膵臓から膵酵素が放出されることで
細胞膜の消化
↓
腺組織・消化管組織の壊死
↓
さらなる膵酵素の放出・血管壊死・血栓形成
などが起こりさらに膵臓の炎症が進行していきます。
また、膵酵素の放出以外にもサイトカインも大量に産生されることで、凝固障害や血管の透過性亢進が起こることでショックの状態に陥ります。
膵炎が起こると膵臓周囲組織にも影響し、肝外胆管間閉塞を起こし黄疸を呈することがしばしばあります。
症状は膵炎の重症度によっても大きく違いがあります。軽度であれば少し食欲がないくらいですが、重度(特に壊死性膵炎では)になると低タンパク血症、腹水、肺水腫、貧血、DIC、血圧低下なども起こり死に至ることもあります。
膵炎の診断
血液検査
血液検査では貧血、好中球増加、血小板減少などがみられることがあるもありますが、変化しないこともあります。
血液化学検査では、肝酵素値の上昇やT-bil、BUNの上昇がみられることが多いです。CRP値の上昇もみられます。
何よりも膵炎以外に疾患が無いかを確認することが重要です。
膵臓酵素検査
従来より測定されていたアミラーゼ・リパーゼは膵臓に対する特異性が低く膵炎の検査としてはあまり使用していません。
膵臓に特異的な検査として最近利用されているものに、Spec-cPLやv-LIPなどあります。これらは比較的特異性が高く、数値が上昇していない場合は膵炎の可能性が低いと判断されます。一方、Spec-cPL・v-LIP値上昇=膵炎としてしまうのも問題があるため、他の検査と組み合わせて総合的に判断する必要があります。
どうしてもSpec-cPL値上昇=膵炎
と思ってしまうのですが、例えば膵炎でなくても副腎皮質機能亢進症や僧帽弁閉鎖不全症でSpec-cPL値が上昇することも報告されています。
画像診断
画像診断とはレントゲン検査、超音波検査などのことです。
特に超音波検査では膵臓が腫れていることが確認できたり、周囲に炎症が波及している(周囲の高エコー化、十二指腸のコルゲートサインなど)が確認できることがあります。同時に肝臓や腸などを確認することで他の疾患が無いか確認します。
CT検査も膵炎の際に有用な検査で門脈内の血栓の検出などはCT検査が最も有効ですが、どの施設にもCT装置が置いてあるわけではありません。
膵炎の治療
治療では膵炎に特異的な治療ではなく、対症療法が中心になります。
鎮痛
先ほども言いましたが、膵炎では膵液が溢れて自己消化・炎症が起こります。
つまり、
膵炎は痛いんです!!
痛みは食欲不振に繋がりますし、ストレス、消化管の動きが悪くなる、苦痛を伴います。
このため、さまざまな鎮痛剤オプションにより痛みを軽減する必要があります。
栄養管理
ひと昔前までは
しばらく絶食・絶水!!
という治療が当たり前のように行われていました。
しかし、
現在はできる限り早期に食事をスタートした方が良いとされています。
(48時間以内に)
腸はその表面に腸絨毛と呼ばれる細かな突起が無数に伸びていて、そのおかげで表面積を増してより多くの栄養素を吸収できるようになっています。腸絨毛の上皮細胞への栄養供給は腸の内腔から吸収されることによって行われます。
そのため、絶食を続けると・・・
- 腸絨毛の萎縮
- 超粘膜の血流低下
- 消化管運動の低下
さらに、絶食が続くと・・・
局所の免疫グロブリンや胆汁酸産生にも悪影響を及ぼし、腸内細菌叢の乱れ、腸のバリア機能低下し、腸内に生息する菌が腸管上皮を通過して腸管以外の臓器に移行してしまうリスクが上昇します。
制吐
犬の急性膵炎で最も多い症状が食欲不振と嘔吐です。
嘔吐を止めることで上述の栄養も早期に摂ることができます。
最も多く使用される制吐剤としてはマロピタントがあります。
他にもオンダンセトロンやメトクロプラミド、これらの薬の併用も行う場合もあります。
輸液
嘔吐に加えて下痢も起こることが多く脱水が起こりやすい状態です。
脱水すると血液灌流が低下し、消化管運動も低下します。
また、嘔吐により大量の消化液を喪失するために電解質バランスの異常、同時に酸塩基異常も起こります。
これらを改善するために輸液(通常は静脈点滴)を行います。
抗炎症
抗炎症としては2018年に日本から犬膵炎急性期用抗炎症剤の『ブレンダZ』という注射薬が発売されています。
他にも、ステロイド剤を使用することもあります。膵炎の際はその炎症のために肝外胆管閉塞と呼ばれる状態により黄疸を呈することがあります。そんな状態を防ぐ目的や食増進効果を目的にステロイド剤を使用することがしばしばあります。
そのため入院して積極的に様々な治療が必要になります。
家でできること
食欲不振、嘔吐、悪心、流涎、下痢などが急性膵炎の症状です。
急にこれらの症状が出た場合はできる限り早く病院に連れて行きましょう。
特に、ミニチュア・シュナウザー、ヨークシャー・テリアでは注意が必要です。
膵炎と診断されたら
重症の場合は入院治療が必要になります。
通院治療の場合でのご自宅での過ごし方ですが、
【飲水に関して】
吐き気が治まっているのであれば、お水をがぶ飲みしないように少しずつあげましょう。
【食事に関して】
食事に関してもできれば少しずつあげるようにしましょう。
脂肪は最も強力な膵外分泌刺激作用を持っており、高脂血症・高脂肪食は膵炎の危険因子として知られています。できれば脂肪分の少ない消化に良いものにしましょう。
食べられるなら固形のものでもオッケーです。
ちなみに食べたものが胃から腸へ排出する時間は炭水化物は早く、脂肪は遅くなります。炭水化物はその中間といったところです。
流動食を処方していただいてそれをあげるのも良いかと思います。
白米最強(笑)
【排泄に関して】
おそらく膵炎であれば点滴治療をしているために排尿量が多くなると思います。
自宅の中で排尿できない犬の場合は、何度か外へ出してあげて下さい。
下痢になってしまっている犬の場合、尻尾が汚れてしまうことが多いと思います。
さらに、下のような『うんぽパンツ』というものを使うことが多いです。
オムツなんですが、ウンチをキャッチしてくれるビニール袋が付いていて非常に便利です。
うんぽパンツ S・16枚 犬 おむつ 介護 おもらし シニア犬 老犬 トイレ補助 トイレトレーニング お留守番 ペット ペピイ PEPPY |
うんぽパンツ M・14枚 犬 おむつ 介護 おもらし シニア犬 老犬 トイレ補助 トイレトレーニング お留守番 ペット ペピイ PEPPY |
うんぽパンツ L・12枚 犬 おむつ 介護 おもらし シニア犬 老犬 トイレ補助 トイレトレーニング お留守番 ペット ペピイ PEPPY |
どうしても下痢を繰り返すことで肛門周りが赤くかぶれてしまいます。そんな時は優しくぬるま湯で洗ってあげてからベビーパウダーをはたきます。
何よりも愛情
膵炎になった犬は病気自体でもストレスですし、病院での治療もストレスとなり不安でいっぱいです。
そんな時はやはり飼い主様の愛情が犬にとって一番大事です。
安心して自宅で過ごせるようにしましょう。
撫でられることが好きな犬であればいっぱい撫でてあげて下さい。
大好きな人の手当てが一番の治療になります(笑)