『フィラリア症』は犬の飼い主様であればみんな聞いたことのある病気だと思います。
春になると血液検査でフィラリアに感染していないかを調べて、予防薬をもらいますよね?
飼い主様からよく聞く声として、
皆さんはどうですか?
地域によりますが、
フィラリア症の予防薬は12月まで必要です‼️
12月にはもう蚊は飛んでいませんが、そこで予防薬を飲むことが重要です。
今回は犬のフィラリア症についての勉強です。
蚊のいない12月まで予防薬が必要な理由。
さらには、
フィラリアと“忠犬ハチ公”の関係。
フィラリアと“ノーベル賞”の関係。
についてお話しします。
もくじ
犬のフィラリア症の症状
忠犬ハチ公もフィラリア症だった!!
忠犬ハチ公は、日本やアメリカで映画化されて有名ですよね。東京の渋谷駅前には銅像もあります。
東京帝国大学の農学博士・上野教授の愛犬はち(秋田犬)は、1935年(昭和10年)3月8日午前2時に死亡し、その後、東京帝国大学農学部獣医学科病理細菌学教室で病理解剖が行われました。
その結果、
“フィラリア症”
であった事が分かっています。
当時の病理解剖では心臓(右心室)から肺動脈にかけてフィラリア成虫の多数寄生があり、全身性皮下水腫及び腹水が認められています。さらに肝臓の繊維化があった事が確認されています。
その後もハチ公の臓器は東京大学で保管され、2010年より新たに臓器を調べた結果、肺と心臓に腫瘍が見つかった事を2011年に発表し、このことからハチ公の死因は“腫瘍とフィラリア症”であるとされています。
フィラリア症はもっとも一般的な病気で、
昭和時代はこのフィラリア症で多くの犬が亡くなりました。
フィラリア症の症状
- 無症状
- 咳
- 運動不耐性
- 呼吸困難
- 失神
- 腹水
- 血尿
- 喀血
犬のフィラリア症での症状は、フィラリアの感染数、感染期間、犬のフィラリアに対する反応性によって違いがみられます。
感染数が少ない場合は無症状です。
感染数が多くなり、感染期間が長くなると
咳
がでるようになります。
心臓、肺へのダメージが大きくなり元気が無くなり、散歩や運動を嫌がるようになります。
重度になると横から見るとお腹が垂れ下がるようになります。
これは腹水が溜まっているためです。
さらに、失神が見られるようになります。
大静脈症候群と呼ばれる急性症状を示すこともあります。
フィラリアの寄生場所は肺動脈ですが、成虫が心臓内に現れ心臓の弁膜(三尖弁)に絡みつくようになることで、突然の虚脱、真っ赤な尿(ワイン色の尿)、呼吸困難が見られ、無治療であればほぼ100%の死亡率という恐ろしい病態です。
フィラリアって?
今回勉強している『フィラリア』は、
犬糸状虫 Dirofilaria immitisという寄生虫です。
オスの成虫は約20cm、メスの成虫は約30cmもの長さになり肺動脈に寄生します。
成虫の寿命は5〜7年とされています。
この寄生虫が感染するのには蚊が重要な役割を果たします。
フィラリアに感染した犬の血液虫には『ミクロフィラリア』と呼ばれるフィラリアの幼虫が流れています。蚊が犬から吸血する際にこのミクロフィラリアも一緒に吸い込みます。
蚊の体内に入ったミクロフィラリアは感染幼虫(L3)と呼ばれる状態まで成長します。
この成長スピードは気温に関係していて、25度では約2週間でミクロフィラリアから感染幼虫(L3)に成長します。
気温が低い場合はミクロフィラリアの成長もゆっくりとなります。
このことから平均気温によりフィラリアの感染期間を予測できると言われています。
この感染幼虫(L3)を持った蚊が健康な犬の吸血をする際に、犬の体内に侵入します。
犬の体内に侵入した感染幼虫(L3)は、
皮膚の下(皮下、脂肪、筋肉など)で2回の脱皮を繰り返し、
約2ヶ月間成長を続けL3→L4→L5まで成長します。
皮膚の下で成長したL5(第5期幼虫)は、
血管内に入り込み血流に乗って心臓や肺の血管を目指して流れていきます。
最終寄生場所の肺動脈にたどり着くと成虫になります。
この期間は約6ヶ月と言われています。
その後、肺動脈でオスとメスのフィラリア成虫がそろうとミクロフィラリアが生まれます。
フィラリアの成虫は約30cmもの長さになります。
それが心臓や肺の血管の中に何匹も寄生している事を考えると、何らかの症状がでるのも納得です。
フィラリアによる物理的なダメージ以外にも、フィラリアへの免疫反応、フィラリアの排泄物への化学的刺激で心臓・肺の血管だけでなく全身の臓器への影響があり様々な症状が見られます。
特に大きなダメージが起こるのが、心臓・肺の血管です。
徐々にダメージが大きくなり肺高血圧症、右心不全になるために咳や腹水、運動不耐性、失神などが起こります。
1度ダメージを受けると、そのダメージは元には戻りません。これを不可逆的変化と言います。
診断
身体検査
頭から尻尾まで詳細に身体検査をします。
首をみると頸静脈拍動というものがわかる場合があり、
重度のフィラリア症であれば腹水があることがわかります。
心臓の聴診では三尖弁逆流の雑音が聴こえることがあります。
これらは『右心不全』による影響です。
血液検査
フィラリア成虫抗原検査キット
犬の血液中のフィラリア抗原を検出する簡易キットで検査することで感染を確認できます。
この検査で偽陰性となることがあります。
抗原検査はフィラリア成虫のメスからの抗原を検出しているため、
・未成熟フィラリアの場合
(フィラリアが成虫になるのに約6ヶ月かかります)
・オスだけの寄生の場合
・ごく少数の寄生の場合
などでは偽陰性となることがあります。
ミクロフィラリアの確認
血液を直接顕微鏡でみることでミクロフィラリアを確認します。
顕微鏡では血液の中を動いているミクロフィラリアが観察できます。
スクリーニングテスト
今の犬の全身状態を把握するためにスクリーニングテストを行います。
レントゲン検査
フィラリア寄生がある場合は、寄生数や寄生期間にもよりますが右心不全が起こっていることがあります。その場合、レントゲン検査では“逆D字”型の心臓陰影が確認できます。
超音波検査
超音波検査ではフィラリア成虫がどこにどの程度いるのか(少数寄生では見つけられないこともあります)が把握できます。
フィラリア症では少しずつ肺高血圧症、右心不全となるためにその状態を把握するのにも超音波検査が優れています。
治療
治療の目標は、犬の臨床症状を改善して治療後の合併症を最小限に抑えてフィラリアを排除することです。
外科的摘出
外科的摘出は大静脈症候群、重度の寄生の場合に考慮します。
フィラリア症になって心臓や肺のダメージが出てしまった場合は、そのダメージは元には戻りません。新たなダメージを減らすという意味では摘出は優れていますが、摘出する際のリスクや、手術後にも治療が必要であることを理解する必要があります。
急性の大静脈症候群の場合は、何もしないと死亡するリスクが非常に高いため外科的摘出が選択されることが多いです。
内科治療
イベルメクチンの長期投与
犬フィラリア(犬糸状虫)の未成熟虫(L5)に対して、イベルメクチンを14ヶ月間毎月1回の継続投与で約98%減少させることができ、
成虫に対しては29ヶ月間毎月1回の継続投与で94.9%減少させることができると報告があります。
投与期間中は無症状でも6ヶ月に1回はレントゲン検査を行い心臓・肺の状態をチェックします。
テトラサイクリン系抗生物質
フィラリアはボルバキア(Wobachia pipientis)と呼ばれる細菌の仲間(リケッチア)と共生していると言われています。
このボルバキアはフィラリアに寄生していて、犬がフィラリア感染した際に様々な炎症を引き起こす要因の1つになっています。
バルボキアに対して、テトラサイクリン系抗生物質を使うことで炎症を抑制できる可能性があります。
さらに、ボルバキアと共生しているフィラリアを駆虫できたり、フィラリアの生殖能力をなくす効果が示されています。
対症療法
フィラリア症を発症している犬では症状を安定化させるために、ステロイドや利尿薬、抗血栓療法が必要になることがあります。
進行したフィラリア症では肺高血圧症や右心不全の症状がでているために、そちらに対する治療も必要になります。
メラソルミン治療
フィラリア成虫駆虫薬としてメラソルミン治療があります。
AHS(American Heartworm Society)のガイドラインではメラソルミン治療が推奨されています。
しかし、日本国内では2014年末にメラソルミン製剤の販売が終了していて入手が困難となっています。
また、入手できたとしても使用には注意が必要であると思います。
アメリカと違い日本では小型犬が圧倒的に多いのが現状です。アメリカは大型犬が多く、それに基づいてガイドラインが作成されています。
メラソルミンは成虫を殺滅する効果がありますが、小型犬に寄生したフィラリアが一気に死んでしまった場合は、その死んだフィラリアが一気に血管につまり犬が急変するリスクが大きいと思われます。
家でできること
予防が何よりも大切‼️
フィラリア症は予防できる病気です。
何度も言いますが、なってしまうと不可逆的なダメージが起こります。
病気にさせないことが何よりも大切です‼️
1ヶ月に1回の予防薬の内服!!
フィラリア症とノーベル賞
2015年に北里大学の大村智教授がノーベル生理学・医学賞を受賞しました。
本当に素晴らしい功績だと思います。
大村教授の受賞は
『寄生虫感染症に対する画期的な新規治療法の開発』
によるものです。
静岡県伊東市の土壌にいた放線菌が産生する化学物質「エバーメクチン」を発見し、その後、抗寄生虫薬“イベルメクチン”を開発しました。イベルメクチンは寄生虫の線虫など無脊椎動物に特有のタンパク質の働きを阻害するために人間などの哺乳類にはほとんど害がありません。
アフリカ、アジア、南米をはじめ熱帯地域の多くの人々の脅威となっている『オンコセルカ症(河川盲目症)』や『リンパ系フィラリア症(象皮症)』ではこのイベルメクチンが効果を示し、予防・治療に使用されています。イベルメクチンはこの両疾病の撲滅のために毎年約3億人に無償投与されています。
このイベルメクチンのおかげで多くの犬の命がフィラリア症から守られるようになりました‼️
予防薬:1ヶ月に1回投与の重要性
1ヶ月に1回の“予防薬”と言われているために、勘違いされている方もいます。
良く聞くのがこの質問です。
イベルメクチンをはじめとしたフィラリア薬は
“駆虫薬”としての効果
により
フィラリア症を予防しています。
蚊に刺されることでフィラリアは体内に侵入しますが、薬を使い肺動脈に寄生する前・血管に侵入する前に駆虫することでフィラリア症を予防しています。
フィラリア症の予防薬はフィラリア幼虫駆虫薬です。
蚊に刺されることを防ぐことは非常に難しいのは皆さん体験としてご存知だと思います。
虫除けスプレーしても蚊取り線香をしても刺されることはあります。
フィラリア薬もこれを予防しているわけではありません。
蚊に刺されて感染幼虫が犬の体内に侵入した後に血液中に入り込むまでに約2ヶ月間の期間があります。
フィラリア薬は、1ヶ月間ずっと効いているわけではありません。
飲んだ時に感染してしまっているフィラリアの幼虫をまとめて駆虫
しています。
特に第4期幼虫(L4)にはほぼ100%の駆虫率と言われています。
その他の、ミクロフィラリア、L3、L5の時期では駆虫率は下がります。
薬を内服した際にL3の幼虫がいる場合、一部の幼虫は薬が効かずに生き残ってしまう可能性があります。
でも、その1ヶ月後にはL4幼虫になっているために次の内服で駆虫することが可能です。
このために毎月の投与が必要です!!
12月まで予防薬が必要な理由
フィラリア症の予防薬は
蚊が飛ぶようになってから1ヶ月後に開始
蚊がいなくなってから1ヶ月後に終了
が基本です。
例えば東京の犬フィラリアの感染期間は11月上旬までとされています。
(フィラリアの感染期間は平均気温から予測ができるとされています)
11月に最後の予防薬を内服したとします。
その直前にフィラリアに感染していたとすると第3期幼虫(L3)の状態で駆虫薬が効かないことが考えられます。
次の春まで予防薬を飲まないとフィラリアは6ヶ月間成長を続け肺動脈で成虫となっているでしょう。
12月に予防薬を内服しておけば駆虫できているのに。。。
せっかく半年間予防していた努力が無駄になってしまいます。
11月にもフィラリアが感染することがあります。
1ヶ月後の12月にまとめて駆虫することが非常に重要です‼️
アメリカのガイドラインでは
通年予防(1年中予防)を推奨しています。
検査をせずに予防薬を飲むと。。。
この質問も良くいただきます。
もしもフィラリアに感染してしまっている場合、血液中に多量のミクロフィラリアがいるかもしれません。フィラリア予防薬は第4期幼虫(L4)に特に効果がありますが、ミクロフィラリアも駆虫します。つまり一気に多量のミクロフィラリアが死滅することになります。すると犬の体内では激しいアレルギー反応が起こることがあります。これは非常に危険なことです。
もしかしたら、犬が予防薬を吐き出しているかもしれません。
何かの理由で予防薬で幼虫を駆虫できていないかもしれません。
簡単な検査でこの危険なアレルギーを防ぐことができます。
検査を受けてから予防薬をあげましょう。
予防薬もいろいろ
最近は予防薬の種類も豊富です。
錠剤、
チュアブル、
滴下剤、
注射薬(1年間効果が持続するものもあります)
忘れずに投与できるもので選びましょう。
どれを選んでも12月まで忘れずに!
- フィラリア症は予防できる病気
- 予防は12月まで(通年予防を推奨)
- 毎月確実に飲ませる
- フィラリアの検査は毎年受ける