カゼ薬を常備している家庭は多いと思います。
この『カゼ薬』、
人にとってはツライ風邪症状を抑えてくれる強い味方ですが、
犬猫にとっては中毒を起こす怖い存在なんです。
今日は犬猫がカゼ薬を食べてしまうことで起こる中毒についてです。
もくじ
症状
犬猫がカゼ薬を食べてしまって起こる中毒症状は次のようなものです。
カゼ薬を食べてしまって起こるのは多くの場合、アセトアミノフェン中毒かイブブロフェン中毒です。
風邪とは
そもそも風邪とは、
風邪症候群といって、上気道(鼻やのど)の急性炎症の総称で、
ウイルスが粘膜から感染して炎症を起こすことで、
くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、咳、たん、発熱といった様々な症状を引き起こした症候群のことなんです。
様々な症状に効くのが風邪薬
くしゃみ、鼻水、鼻づまり、のどの痛み、咳、たん、発熱などの症状を抑えるためには多くの成分が含まれた薬が必要です。
そのため風邪薬は総合感冒薬と呼ばれています。
そんな風邪薬(総合感冒薬)の成分の中心になっているものが、
解熱鎮痛成分
になります。
解熱鎮痛成分としては、
- アセトアミノフェン
- 非ステロイド(イブプロフェンなど)
が主なものです。
そして、
犬猫で『風邪薬の中毒』を起こす原因の成分もこの解熱鎮痛成分です!!
解熱鎮痛成分
風邪薬にはアセトアミノフェンや(イブプロフェンなどの)非ステロイドが解熱鎮痛成分として含有されています。
どちらの薬も解熱・鎮痛効果があります。
この2つの違いは、
- アセトアミノフェン:炎症を抑える作用がない
- 非ステロイド:炎症を抑える
というものです。
皆さんがよく知る『ステロイド』は、主に副腎皮質からの糖質コルチコイドを人工的に合成した合成ステロイド薬です。様々な作用があるために多くの病気で治療に使用され、我々はステロイドの恩恵に与かっています。
ステロイドの作用の中に抗炎症作用というものがあります。
これはホスホリパーゼA2という酵素を阻害して、細胞膜を安定化させアラキドン酸カスケードと呼ばれる反応の最初にあるアラキドン酸の生成を抑制することなどから炎症を抑えるというものです。
一方で非ステロイド薬というのは、シクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素を阻害して、アラキドン酸からプロスタグランジンの生成を抑制します。プロスタグランジンは炎症(痛み・熱)を引き起こします。さらに、組織損傷時に血漿から遊離したブラジキニンという物質は、知覚神経を興奮させて強い痛みを起こします。プロスタグランジンは、ブラジキニンと比較して直接的な発痛作用は弱いのですが、ブラジキニンによる発痛を増強させます。
アセトアミノフェン中毒
風邪薬(総合感冒薬)の70%以上はアセトアミノフェンを含んでいるために、犬猫がこれを食べることでアセトアミノフェン中毒が起こります。
アセトアミノフェンは速やかに消化管から吸収されて、大部分はグルクロン酸抱合・硫酸抱合されて代謝排泄されます。また一部はチトクロームP450(CYP)代謝され、その代謝産物としてN-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)と3-ヒドロキシアセトアミノフェンを生じます。
このN-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)が赤血球、肝細胞、尿細管上皮を酸化することで、メトヘモグロビン血症、ハインツ小体性貧血、重篤な肝障害、腎障害を引き起こすとされています。
NAPQIはグルタチオン抱合反応によって代謝され,メルカプツール酸として尿中に排泄されます。
アセトアミノフェンが代謝できない量を摂取することでNAPQIが大量に生成され肝障害が引き起こされます。
特に猫ではグルクロン酸抱合ができないために、少量のアセトアミノフェンでも代謝排泄がうまくできずに中毒になりやすいとされています。
犬ではアセトアミノフェン 100〜600 mg/kg、猫では10〜100 mg/kgで中毒量とされています。
日本で販売されている風邪薬に含まれるアセトアミノフェンの含有量を考えると、猫では1錠を摂取しただけで中毒となり場合によっては致死的です。
アセトアミノフェン中毒の症状
中毒症状は摂取して1時間ほどで現れます。
嘔吐、下痢などの消化器症状、重症になると肝障害、猫では貧血やチアノーゼも起こります。
非ステロイド(イブプロフェン)中毒
イブプロフェン(非ステロイド)中毒の症状
イブプロフェンをはじめとする非ステロイドは痛みや炎症のもとになるプロスタグランジンという物質の生成を抑制してくれますが、腎血流の維持・胃粘膜保護作用など生体の恒常性を維持も抑制するためにその部分の副作用が多く見られます。
イブプロフェン中毒の軽症例では、嘔吐・下痢などの消化器症状が見られ、
重度になると吐血、黒色便(タール便)などの消化管内出血を伴い、急性腎障害なども見られます。
さらに、痙攣・昏睡などの神経症状も見られることがあり、最悪の場合は死亡します。
中毒量は犬では25〜600 mg/kg、猫では12.5〜300 mg/kgとされています。
治療
➊催吐処置
摂取してから2時間以内程度であれば催吐剤の投与によりできる限り薬剤を排出させます。
場合によっては麻酔をかけて胃洗浄を行います。
アセトアミノフェンもイブプロフェンも摂取後に速やかに吸収されるため、
これらの処置は摂取してから早ければ早いほど効果があります。
➋アセトアミノフェンへの特効薬
N-アセチルシステインという薬剤が特効薬とされています。これは、アセトアミノフェン中毒の問題となる代謝産物N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)を代謝排泄するために必要なグルタチオンという物質の前駆物質として働きます。
この薬剤を4時間おきに経口投与します。
ただしこの薬剤、非常にマズくて。。。
❸補助療法
臨床症状がある場合は、緊急治療として静脈点滴などの補助療法を行う必要があります。
臨床症状が12〜48時間継続している場合は、いつ死亡してもおかしくない危険な状態です。
家でできること
徹底して薬を管理すること!!
薬は必ず動物の届かない場所に管理してください。
一番いいのは箱に入れて、その箱を引き出しに入れることです。
もしも食べてしまった場合は、
様子を見るのではなくできる限り早く動物病院を受診すること!!
犬猫(特に猫)では風邪薬を1錠飲み込んだだけで中毒になることがあります。
そのため様子を見ることは非常に危険です。
できる限り早く治療介入することが重要です。