犬猫が目をショボショボする
目が開かない
赤くて気にしている
などという際は多くの場合、角膜に傷があります。
『角膜潰瘍』は非常に多い病気の1つです。
角膜潰瘍を軽くみてほおっておくと、失明、眼球摘出ということもありえます。
今回は犬猫の『角膜潰瘍』の勉強です。
特に、鼻ペチャ犬はしっかり覚えておいてね。
もくじ
角膜って?
角膜は血管も無い無色透明で体の臓器としては特殊な組織です。
イヌでは眼球全体の20%、猫では30%の面積を角膜が占めています。
その役割は、
- 光を通すこと
- 光を屈曲させること
- 眼球の形態を維持する壁
という機能を果たしています。
犬猫の角膜は4層からなっています。
一番外側は『角膜上皮細胞』で5〜8層の細胞から構成されていて、角膜上皮細胞は時間単位で新しい細胞が作られて1週間程で脱落していく非常に活発な新陳代謝があります。
このため、角膜上皮の傷は1週間程で治癒します。
角膜周辺部からは中央に向かって(三叉神経である)角膜の神経が角膜上皮まで伸びています。
この神経は表層ほど蜜に分布して深部ほど少なくなっています。
角膜上皮下神経叢の密度は指や歯の300〜400倍もあり、そのため知覚が非常に鋭くなっています。
角膜の厚さの90%を占めるのが『角膜実質』でコラーゲン繊維が規則正しい配列しています。
この規則正しい配列が角膜の透明性を維持するポイントになっています。
角膜実質はコラーゲンが主体なため存在する角膜細胞はとても少なく、この部位に傷ができてしまった場合、治癒には時間がかかります。
角膜実質の細胞(keratocyte)のターンオーバーは2〜3年と非常にゆっくりで、治癒に時間がかかる・治癒しても瘢痕が残り透明性が失われる可能性があるので、何としてもこの角膜実質に障害が起きないように、角膜上皮が外からの刺激(化学的・物理的)を防いでくれているわけです。
ただ、その要の角膜実質は障害に弱い。
それを守るために盾としての角膜上皮があります。
盾(角膜上皮)をすぐに修復できるように活発な新陳代謝があり、盾の異変にすぐに気づくように知覚神経を発達させています。そうする事で、さらに強力な盾である瞼を閉じられるからです。
体の構造って感動的です!!
『デスメ膜』は角膜実質の内側にあり弾性線維の強靭な膜のことです。
角膜には血管がありません。
血管が無いと栄養も酸素も運ばれないから生きていけないんじゃないですか?
角膜は光を透過させるために透明なので、血管もありません。そのために、特殊な働きによって栄養と酸素を取り込んでいます。
栄養を取り込むために重要なのが角膜の一番内側にある『内皮細胞』です。
内皮細胞はポンプの機能を持っていて、目の内側から眼房水を汲み取ったり戻したりする事ができます。この働きのおかげで血管が無くても栄養を角膜の細胞に送り届ける事ができるようになっています。
内皮細胞が障害を受けた際に内皮細胞は再生しません。
角膜表面はいつも涙で濡れいている状態にあるのが正常です。
『涙』は角膜表面を覆う『涙液膜』と呼ばれていて重要な役割を果たしています。
涙の役割は、眼の表面を潤すこと、老廃物・異物を洗い流すこと、角膜に酸素と栄養を与えることです。
涙液膜は3層構造になっていて、角膜く直接触れているのは『ムチン層』と呼ばれる結膜のゴブレット細胞から分泌される粘液で涙の土台になっています。
涙の主成分である『水層』は涙腺より分泌されます。
一番外側は『油層』でマイボーム腺から分泌され、涙(水層)を覆い蒸発するのを防ぐ役割があります。
角膜潰瘍ってどんな状態?
角膜が欠損した状態を角膜潰瘍と言いますが、欠損した深さによって
- 表層性角膜潰瘍(≒角膜上皮びらん)
- 実質性角膜潰瘍(深部性角膜潰瘍)
- デスメ膜に至る潰瘍・デスメ膜瘤
- 角膜穿孔
に分類されます。
表層性角膜潰瘍は角膜上皮のみの欠損です。
角膜上皮が欠損すると、隣接する上皮細胞が遊離して数時間のうちに欠損部を覆うようになります。
角膜輪部(角膜の辺縁)には幹細胞があって、これが活発に細胞分裂をする事で角膜上皮細胞が中央に向かって進んでいきます。数日以内に正常の角膜に修復され、1日約1mmずつ修復され約1週間で治癒します。
ただし、角膜上皮のもっとも下層にある角膜上皮基底細胞が欠損した場合、遊走して来た上皮細胞の接着は弱く見た目は修復されていますが、完全に接着・治癒するまでには6〜8週間かかります。
特発性慢性角膜上皮欠損(SCCEDs)
以前は、難治性角膜潰瘍、慢性角膜上皮欠損、上皮基底膜ジストロフィー、再発性上皮びらんなど様々な名前で呼ばれていた病気です。
角膜潰瘍の深度分類では表層性角膜潰瘍(角膜びらん)に分類されます。
角膜上皮基底膜と角膜実質がうまく接着できないために角膜上皮が剥がれてしまいます。なぜこの接着がうまくいかないのかはまだハッキリとは分かっていません。
治療としては、接着ができていない角膜上皮を取り除くこと、角膜実質浅層の変性領域を除去すること、感染予防、疼痛緩和になりますが、外科治療と組み合わせた方が治癒しやすいとされています。
実質性角膜潰瘍(深部性角膜潰瘍)は角膜実質にまで及ぶ欠損があります。
実質性角膜潰瘍では、欠損部に白血球が入り込み炎症を起こし、角膜細胞が線維芽細胞に変化し欠損部を埋めるようになります。それだけでは足りない場合は、角膜に血管新生が起こり肉芽組織を作り欠損部を充填します。血管新生は1日で0.5〜1mm位のスピード起こります。
線維増生や血管新生、肉芽形成など時間がかかるために治癒までに数週間から数ヶ月かかります。
瘢痕ができ規則正しいコラーゲンの配列ではなくなるために透明では無くなります。
デスメ膜瘤は、角膜上皮、角膜実質が完全に欠損(角膜の90%以上の深さが喪失)してしまい、デスメ膜が露出した状態で、眼球内圧に押されてデスメ膜が突出して瘤(こぶ)を形成した状態です。デスメ膜は0.012〜0.03mmの薄い膜のため、いつ角膜穿孔に至ってもおかしくない危険な状態です。
角膜穿孔は、文字通り角膜に穴が開いた状態です。
角膜潰瘍の原因
角膜潰瘍はどの犬種・猫でも発症します。
犬でも猫でも原因として一番多いのは外傷です。
犬では散歩中、猫では同居猫と遊んでいて角膜潰瘍となることが多いです。
その他には、
- 異物
- ドライアイ
- 神経麻痺
- 睫毛異常
- 眼瞼異常
- 角膜内皮変性症
- 高眼圧
- 角膜変性症
- 点眼薬の副作用
- 全身性疾患
などがあげられます。
これらは、原因にもなりますし角膜潰瘍の治療が上手くいかない際に悪化要因になっているものです。
さらに、感染を伴うと急激に角膜潰瘍が悪化します。
角膜潰瘍の症状
という主訴が一番多いように思います。
これは小さな傷でも痛いからです。
角膜の神経は表層ほど密に分布していて、小さな表層性角膜潰瘍でも非常に痛みが強く目が開けられなくなったり、元気が無くなったり、震えたりすることもあります。顔周囲を触ることを嫌がったり、場合によっては顔を触ろうとすると噛み付くこともあります。
目がショボショボする(羞明)
目をこする
結膜充血・目が赤い
眼瞼痙攣
目ヤニが多い
涙が多い
角膜穿孔している場合は、眼房水が流出し、眼球が形を保てないために眼球虚脱が起こります。
炎症が強い場合、前房蓄膿、出血を起こすこともあります。
診断
検眼鏡検査
眼瞼、角膜、結膜などの状態をチェックします。
結膜充血の様子、角膜の血管新生、色素沈着、浮腫、瘢痕形成、炎症細胞の浸潤などを見ていきます。
スリットランプを用いて潰瘍病変の深さもチェックします。
角膜潰瘍の検出:フルオレセイン染色
角膜潰瘍の検出にはフルオレセイン染色を行います。
角膜上皮が剥離・欠損している部分が染色されます。
デスメ膜は染色されないので潰瘍が大きく深い場合、角膜実質は染色されデスメ膜の露出した中央部分だけが染色されません。
涙液量のチェック
シルマーティア検査によって涙の産生量を計測します。
これにより、乾性角結膜炎の存在を確認します。
一般的に角膜に障害(傷)があれば、刺激になるために涙の量は通常より増えます。
そのため、
フルオレセイン染色で陽性(角膜潰瘍)で正常な涙の量であった場合はドライアイが疑われます。
細菌学的検査
細菌感染が疑われた場合は、抗生物質選択のために細菌培養・感受性検査を行います。
細菌感染があると、細菌により分泌されるコラゲナーゼという物質で角膜実質のコラーゲンが溶かされてしまい、角膜潰瘍が進行していってしまいます。
角膜潰瘍の治療
基本は内科療法
角膜潰瘍の深さと合併症を考えて内科治療・外科治療を選択しますが、
角膜の透明性、バリア機能などの維持のためには内科治療で治癒させるのが理想的です。
そのため、角膜潰瘍の治療の基本は『点眼療法』になります。
潰瘍の程度により何種類かの点眼薬を組み合わせて使います。
複数の点眼薬を使用する場合は、
1つの点眼薬を滴下してから
5分以上間隔をあけて
次の点眼を行うようにします。
点眼よりも大事なポイントは
目をこすらないようにすること!!
です。先ほども言ったように角膜潰瘍は痛みがあるので、犬猫は目を気にして擦ってしまいます。
そうすると、新たな傷をつけたり治癒に時間がかかります。
角膜保護剤
ヒアルロン酸ナトリウムなどの角膜保護剤は、角膜上皮細胞を接着・進展させ創傷治癒促進効果および保水作用を期待して使用します。
抗生物質
細菌の2次感染を防止する目的で抗生物質点眼を行います。
多くの場合は1日2〜3回の点眼になります。
自己血清点眼
抗コラゲナーゼ阻害薬
角膜損傷時には、角膜実質からコラゲナーゼと呼ばれるコラーゲン分解酵素が産生されます。
そのために角膜実質の融解が進み潰瘍が進行してしまいます。
さらに、細菌感染があるとその細菌からもコラゲナーゼが分泌されるために、角膜実質の融解が進行します。
蛋白分解酵素阻害・コラゲナーゼ(コラーゲン分解酵素)阻害を目的に点眼します。
できる限り頻繁に点眼します。
還元型グルタチオン製剤
角膜コラーゲンの合成促進・コラーゲン分解酵素阻害を目的に点眼します。
1日に5回程度点眼します。
エリザベスカラーは超重要!!
エリザベスカラー、ネックカラー、cone of shame、lampshadeなど色々と呼び名はありますが、エリマキトカゲのようなアレのことです。
犬猫は眼に痛み・違和感があると擦ろうとします。
前足で擦ってみたり、床や絨毯で擦ってみたり、家具で擦ってみたり・・・
擦ることで眼に新たな傷を作ることもあります。
擦ることで傷の治りが悪くなります。
角膜潰瘍の重症度に関わらずエリザベスカラーは確実に装着!!
外科療法
角膜実質の深い部分までに及んだ潰瘍・デスメ膜瘤では、角膜穿孔(眼球破裂)を予防する目的で手術が必要になります。
手術としては、角膜縫合、瞬膜弁被覆、結膜弁被覆、眼瞼縫合などです。
表在性の角膜潰瘍は通常1週間程度で治癒しますが、
なかなか治癒しない場合は何らかの治癒を阻害する原因があります。
眼瞼の異常やまつげの異常であった場合は外科的にそれらを改善する必要があります。
また、難治性角膜潰瘍では角膜上皮基底細胞により再生した上皮細胞の接着が悪く、繰り返し上皮細胞が剥がれた状態になります。その際は、剥がれた上皮細胞を外科的に取り除いたり格子状角膜切開、点状角膜切開が必要になります。
コンタクトレンズの使用
動物用のコンタクトレンズというものがあります。
これは人間のような視力矯正用ではなく、角膜を保護するためのレンズです。
使用することで、角膜への外からの刺激を軽減でき、疼痛感を軽減できます。
また、点眼薬の角膜への接触時間をのばすことも期待できます。
何らかの理由で手術ができない際には外科手術の代用や補助として期待できます。
しかし、比較的外れやすいためにその都度新しいコンタクトレンズを入れることで費用がかかります。
再診の重要性
表在性角膜潰瘍は1週間程で治癒しますが、もしもこれが治癒しない/悪化傾向であれば何か原因が隠れているはずです。
できれば1〜3日くらいで診察をして悪化傾向にないかチェックすることをオススメします。
(もしも角膜に融解所見があればすぐに細胞診断・培養検査が必要になります。)
実質性角膜潰瘍の際は特に頻繁に診察が必要になります。どんどん潰瘍が進行する場合は治療(点眼)の追加や(外科治療への変更などの)治療の変更が必要だからです。
視力を失い、痛みが続く場合は眼球摘出が必要になります。
家でできること
鼻ペチャ犬では特に注意‼︎
角膜潰瘍はどの犬種でも猫でも発症しますが、
シー・ズー
フレンチ・ブルドック
パグ
ボストン・テリア
などの
短頭種では
角膜潰瘍のリスクが非常に高く、
重症化しやすい
と報告されていて、『露出性角膜症候群』と呼ばれいたりします。
短頭種ではご存知のように眼と鼻の距離が短いために、
散歩中など何か臭いを嗅ぐ際には物と眼の距離も非常に近くなります。
そのため、草むらや街路樹では長い草・枝などで眼を傷つけやすくなります。
さらに、
短頭種は眼球が収まる眼窩スペースが浅く、
眼瞼裂(瞼の切れ込み)が長いために眼球が外へ出てきていて、露出している部分が多くなり目が大きくなっています。このためにゴミが入りやすく、傷つけやすい構造になっています。
また、短頭種は角膜の神経が鈍く違和感・痛みを他の犬猫よりも感じにくい傾向があります。
これが短頭種が角膜潰瘍のリスクが非常に高い理由です。
先ほども言いましたが、
涙には
- 眼の表面を潤すこと
- 老廃物・異物を洗い流すこと
- 角膜に酸素と栄養を与えること
という役割があります。
短頭種では、目が大きいために眼球の一番飛び出している部分まで十分な涙が届けられません。
すると、涙の機能が十分に働かないということになります。(通常は瞬きをするたびに角膜全体に涙液膜ができます)
このことが短頭種の角膜潰瘍が重症化しやすい理由です。
カラーは絶対に装着!!
先ほども言いましたが、カラーは絶対に装着してください。
こんな時には何かしら理由があります。
特に良くみられるのは、
- カラーを装着していない
- カラーは装着しているけど、その大きさ、形、素材がダメ
ということが多いです。
カラーの選択:眼科疾患の際の目の保護とは
カラー(エリザベスカラー、ネックカラー、cone of shame、lampshadeなど)は犬猫の病気の際には良く利用するものです。
例えば、
手術の後に傷を舐めないようにするため
皮膚病治療で体を舐めないようにするため
点滴治療の際の点滴の管(留置針)を外さないため
などの理由があります。
このような場合は、
舐めなければいいので短めでも、ソフトな素材でも舐めさえしなければ目的を達成できます。
眼科疾患の際の目の保護では、
眼をこすらないようにする!!
が目的になるので、厳格な長さ選び・素材選びが重要です。
眼科疾患の際のカラーの選択
- しっかりとした硬さ(曲がりづらいもの、布などではダメ)
- 鼻先より長い(ずらしても鼻先が出ない)
- 透明で視野が確保できる
- 垂れ耳では耳が眼に被らない(耳の毛が刺激になって悪化するので)
そんな時はさらにカラーをさらに長くする必要があります。
アニサポ アイガード M 首周り23-38cm、高さ23cm エリザベスカラー 犬 ペット 国産
|
【オーストラリアOptivisor】横ではなく前に出ているのでストレスフリーなカラー!ノバガード ドッグワウンドプロテクション スモール/ミディアム【エリザベスカラー 介護 傷 手術】
|
カラーをすると食事が食べにくくなったり、水が飲みにくくなります。
特に眼科疾患の際のカラーは鼻よりも長くなければいけないので、カラーが床に当たってしまい食器まで口が届きません。
その際は、食器に台をつけて高くしてあげるようにしましょう。
食器は様々な工夫をして高くしてあげることで食事・飲水ができるようにしています。
市販の食器台を使うのも1案です。
|
購入しなくても、小さな箱やガムテープを台にしてそこに食器を置く(ガムテープで動かないようにする)とよいでしょう。
それでも食べにくい場合、飲みにくい場合は器を持ってあげるようにします。
カラーが第一選択ですが・・・
眼の保護にはカラーが第一選択になりますが、こんなものもあります。
バイザー、マスク、メガネなども眼の保護にはなります。
利点としては
- 顔の近くにフィットして、広い視野が確保できる
- 家具・壁・人にぶつからない
- 食事・水が食べやすい・飲みやすい
欠点としては
- 眼に近すぎるものでは、内側で眼が擦れる
- ズレてしまうと眼を傷つける
- 目薬をするたびに外さないといけない
|
セール ドグルズ 【Doggles】ゴーグル Mサイズ プードル、チワワ、ヨークシャ 小型犬 中型犬 サングラス
|
複数の点眼薬を使う場合
先ほども言いましたが、
複数の点眼薬を使用する場合は、
1つの点眼薬を滴下してから
5分以上間隔をあけて次の点眼を行うようにします。
- 角膜潰瘍をほおっておくと失明・眼球摘出をすることもある
- 症状は目をショボショボする、目が赤い
- 治療の基本は『点眼療法』
- カラーは絶対に装着する!!
- カラー選びも超重要
- 鼻ペチャ犬は特に角膜潰瘍に注意が必要