犬の病気

何となく調子が悪い/寝てばかりいる  犬の副腎皮質機能低下症(アジソン病)

何となく調子が悪い。寝てばかりいる。体重が減ってきた。ごはんを食べない。
そんな時は“アジソン病”かもしれません。

でも“アジソン病”はモノマネ上手な病気です。
海外では

The Great Pretender:Addison’s desease(hypoadrenocorticism)
偉大な詐称者:アジソン病(副腎皮質機能低下症)

などと呼ばれています。
つまり同じような症状をだす病気は他にもたくさんあるのです。
そんなに多くない病気とされていますが、診断ができていないのかもしれません。

Rin先生
Rin先生
アジソン病がどんな病気なのかを勉強していきましょう

Great Pretender(偉大な詐称者)

食欲低下・不振

元気がない

寝てばかりいる

吐く

これらの症状はアジソン病の犬でみることがある症状ですが、
他の多くの病気でも共通するものです。
散歩中に何かを拾い食いしてしまう犬は非常に多いですが、場合によっては“胃腸炎”になります。
すると、

うちの子、元気がないんです。ごはんも食べないし。

となります。
他にも元気がなくなる、ご飯を食べなくなる病気はたくさんあります。
人間でも風邪というもっとも多い病気の際も、元気がなくなり、だるいのでずっと寝ている。
って状態になりますよね?

つまり、アジソン病の症状はよくある病気の症状ということになります。
これがアジソン病が

The great pretender(偉大な詐称者)

と呼ばれる所以です。

アジソン病ってどんな病気なの?

副腎皮質機能低下症の別名がアジソン病です。
1885年にイギリスの解剖学者Thomas Addisonによって発表されたことからこの名前がつきました。
このアジソン病は比較的マレな病気とされています(10万頭に36頭)。
メスに多いとされています。
ただし、症状が曖昧で診断できていないだけかもしれません。
一般的な動物病院では4〜5年に1頭のアジソン病患者さんの診察があるかもといった感じです。

Rin先生
Rin先生
マレな病気とされてますが、思ったより多いのではと考えています。
ここのところ毎年アジソン病の患者様と出会います。

副腎の機能は別の記事でも書きましたが、様々なホルモンを分泌します。
犬の副腎は左右腎臓のすぐそばに位置し、その大きさはそれぞれ約1gと非常に小さな臓器です。

中でも副腎皮質は糖質コルチコイド(コルチゾールなど)や硬質コルチコイド(アルドステロンなど)を分泌しています。

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急性生命維持ホルモン=硬質コルチコイド(アルドステロン)

副腎皮質の球状層から分泌される主要な硬質コルチコイドがアルドステロンです。
アルドステロンは特に腎臓の集合尿細管の主細胞に作用して、ナトリウムの再吸収、カリウムの分泌を促進する作用を持っています。
アルドステロンが増えると、血液中にナトリウムが増え、それと同時に水分も増えるために血圧が上昇します。尿中へのカリウム排泄が増えて低カリウム血症と呼ばれる状態になるために筋力低下が起こります。

脳下垂体からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の球状層への刺激は弱く、硬質コルチコイド(アルドステロン)の分泌を刺激するのは、アンジオテンシンⅡと血中カリウム濃度であるとされています。(糖質コルチコイドの分泌刺激はACTHです)

アルドステロンの分泌が低下した場合、大量のナトリウムが尿中に失われ、
その結果、脱水、血液量減少により循環性ショックにおちいります。
また、尿中へのカリウム排泄ができなくなるために高カリウム血症となることで、心収縮の低下、不整脈など心毒性が明らかになって心不全となります。

治療しないと数日以内に死亡するとされています。
これをアジソンクリーゼと言います。(後述します)

これらのことから
アルドステロン=急性生命維持ホルモン
と呼ばれています。

アジソン病は大きく分けて2タイプある

副腎皮質機能低下症という名前からも何となく分かるかもしれませんが、
副腎皮質からのホルモン分泌が少なくなってしまうのがこの病気です。

アジソン病は大きく分けて2タイプがあります。

1つは(副腎皮質)球状層からのアルドステロンと呼ばれる硬質コルチコイドの分泌能が低下し、電解質異常をおこすタイプ。ほとんどのアジソン病はこちらのタイプだと言われています。

もう1つが電解質異常をおこさないタイプです。
こちらは非典型アジソン病と言われています。

電解質異常をおこすアジソン病

犬ではこのタイプのアジソン病(原発性アジソン病)が90%以上をしめると考えられています。

副腎皮質全体が何らかの原因(おそらく自己免疫性破壊)で萎縮することで、ホルモン分泌能が低下してしまい、症状としてアルドステロンの欠乏が顕著に現れたのがこの電解質異常をおこすアジソン病です。実際にはコルチゾールなどのホルモン分泌も低下しています。

Rin先生
Rin先生
ほとんどの犬のアジソン病では副腎皮質の自己免疫性破壊が原因と考えられていますが、特定はすることはできないために“特発性”の副腎萎縮と言われます。

医原性でもこのタイプのアジソン病が起こります。
長期に高容量のステロイド剤を使用していると、副腎皮質自体は機能低下をおこします。
(副腎皮質自体がステロイドを分泌しなくとも薬として十分な量があるため)
そんな状態で突然使用を中止すると、機能低下している自身の副腎皮質からアルドステロンなどのステロイドを分泌できないために、医原性アジソン病となります。

『食欲が無い』
との事で、夜に来院された4歳のプードル。
身体検査では3ヶ月前に来院された時よりかなり痩せてしまっていました。
オーナー様の話では3〜4日前から食欲が無くなったとの事でした。
血液検査ではリンパ球増多症、低ナトリウム血症、CRP(炎症反応検査)の高値があり、カリウムは基準値の上限でした。
レントゲン検査では脱水のために心臓が小さくなっていました。
超音波検査では左右の副腎の幅(厚さ)が1mmと非常に薄く萎縮してしまっていました。

ここまでの検査でアジソン病を強く疑い、ACTH刺激試験(ホルモン検査)を行いました。
後日戻ってきた検査結果で“アジソン病”であると確定診断ができました。

この日からすぐに内服治療(酢酸フルドロコルチゾン+プレドニゾロン)をはじめて、数日ですっかり元気になりました。

電解質異常をおこさないアジソン病(非典型アジソン病)

糖質コルチコイド(コルチゾール)の欠乏がメインのタイプのアジソン病を非典型アジソン病と言います。
副腎皮質球状層の機能は温存されているため、アルドステロン分泌ができるので電解質異常が見られません。しかし、自己免疫性の副腎皮質破壊が起きているのだとすると、いずれ球状層の破壊もおこす可能性があるために注意が必要です。

二次性アジソン病と呼ばれいるものもあります。
これは頭部損傷や下垂体周辺の病変のために起こり、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)やACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の欠乏により二次的に副腎皮質(束状層と網状層)が萎縮することでコルチゾールの欠乏、つまり電解質異常がないアジソン病が起こります。
(ACTHのアルドステロン分泌刺激は非常に弱い)

副腎皮質機能亢進症の治療として、op’-DDD(ミトタン)を使用している場合、治療により副腎皮質の網状層と束状層が容量依存性に破壊されているために、アルドステロンには大きく影響せずにこのタイプの医原性アジソン病が発症することがあります。

『痩せてきた』
との事で来院された8歳のプードル。
6ヶ月前から痩せてきて動物病院で治療してもらっているけど、何か調子が悪そうとの事でした。
身体検査では、痩せていて6ヶ月前から500g程体重が落ちていました。
血液検査では、リンパ球増多症、コレステロールの低値、CRP(炎症反応検査)の高値がみられました。
レントゲン検査では弁膜症のために心臓は拡大していました。
超音波検査では左右の副腎の幅(厚み)が1.5mmと萎縮していました。

ここまでの検査で非定型のアジソン病を疑い、ACTH刺激試験(ホルモン検査)を行いました。

後日戻ってきた検査結果から“アジソン病”と確定診断されました。
電解質異常が無いため、糖質コルチコイド(プレドニゾロン)のみでの治療を開始しました。(弁膜症の治療も同時に開始)
1週間後にはすっかり元気になり、1ヶ月後には体重も増加しました。

緊急疾患アジソンクリーゼ

特発性の副腎萎縮はゆっくりと進行することが多いとされています。
徐々に副腎皮質機能が落ちてきたところ、つまりコルチゾールやアルドステロンがあまり分泌されなくなっている時に、犬に何かのストレスが加わるとそのストレスに対応できなくなり、突然のショック状態(アジソンクリーゼ)におちいります。

コルチゾール(糖質コルチコイド)は、
・外傷
・感染
・高温、低温
・手術
・身体拘束
・消耗性疾患
などで急激に分泌増加することが知られています。体がストレスを受けた際にコルチゾールを増やしてそのストレスに対応するようにしているからです。
アジソン病ではこのコルチゾールが分泌できない/または少ないために、ストレスに対応できなくなり、血圧や血糖値が維持できなくなってしまいます。

さらにアルドステロンの分泌が無い/少ないために、大量のナトリウムが尿中に失われて脱水、血液量減少により循環性ショックにおちいります。尿中へのカリウム排泄ができなくなるために高カリウム血症となることで、心収縮の低下、不整脈など心毒性が明らかになって心不全となります。

コルチゾール・アルドステロンの分泌不全によりストレスに対応できなくなりショック状態になっていることをアジソンクリーゼと言います。
治療しないと数時間から数日で死亡してしまう、緊急性の高い病気です。

アジソン病の好発犬種

プードル、
ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、
グレート・デーン、
セント・バーナード
などに好発傾向があるとされています。

Rin先生
Rin先生
プードル、ウエスティが多い印象ですね。

症状:なんとなく調子が悪い

『この症状が見られたらアジソン病!!』
という症状がありません。

曖昧な症状が良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、
ある日何かのきっかけ・何かしらのストレスで、急にグッタリして病院に運び込むという事が多いように思います。これをアジソンクリーゼと言います。

お兄さん
お兄さん
良くなったり、悪くなったりを繰り返していつか限界を迎えて急変するんですね。
あんまり様子をみて過ごしちゃいけませんね。

Rin先生
Rin先生
その通りです。犬の調子が悪い時は様子を見るのではなく、できる限り早く病院に行くことです!!

Canine and Feline Endocrinology and Reproduction より

診断

身体検査

診察室で身体検査をすると、削痩(痩せている)、虚弱を見ることがあります。

アジソン病はそれほど多い病気ではありませんが、常に疑って身体検査をする必要があります。
The great pretender(偉大な詐称者)と呼ばれるくらい分かりづらく、見落とされることが多くあります。

Canine and Feline Endocrinology and Reproduction より

一般血液検査

アルドステロン分泌が低下するために、電解質バランスの異常が出ます。
つまり、高カリウム血症低ナトリウム血症、低クロール血症が起こります。

ナトリウムが尿中に失われるために、同時に水分も失われて脱水・循環血液量が減少します。
そのために尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cre)が上昇します。
これは腎臓病があるのでは無く、脱水による循環不全・腎血流不全によるものです。
また、コルチゾールは胃腸粘膜の保護にも必要で、これが低下する事で胃腸からの出血がおこります。そのためにBUNが上昇する事があります。

コルチゾール分泌も低下しているために、低血糖リンパ球増多症好酸球増多症がみられることもあります。

確定診断にはACTH刺激試験(ホルモン検査)

この検査は副腎皮質(束状層、網状層)の反応性を調べる検査です。
これは薬(合成ACTH製剤)を注射する前の血液中コルチゾールと1時間後の血液中コルチゾールを測定するもので、この検査でアジソン病を確定診断することができます。

画像診断

レントゲン検査では、脱水のために心臓が小さくみえる事が多いです。

超音波検査では、副腎が萎縮してしまっているために見つける事が難しく超音波検査を得意としている獣医師でないと難しいかもしれません。

治療

慢性の電解質異常を伴ったアジソン病

アルドステロン(硬質コルチコイド)、コルチゾール(糖質コルチコイド)の両方が不足しているために、生涯これらを補充する必要があります。

酢酸フルドロコルチゾン

これは硬質コルチコイドの補充を目的にした薬です。
ある程度の糖質コルチコイド作用も持っています。

1日2回の内服が必要になります。
治療を開始して1週間ごとに電解質測定を行い、安定するまで薬の量を調節する必要があります。

副作用として、多飲・多尿、多食、パンティング、脱毛などがおこる事がありますが、これは薬に含まれる糖質コルチコイド作用によるものです。この場合は治療を変更する必要があります。

ビバル酸デソキシコルチコステロン(DOCP)

22〜25日間隔で注射する硬質コルチコイド製剤です。
内服の糖質コルチコイドの併用が必要になります。

慢性の電解質異常を伴わないアジソン病

糖質コルチコイド(プレドニゾロン)の内服治療をします。

症状をみながら低用量から開始して、症状が出るようであれば少しずつ増やしていきます。

急性のアジソン病(アジソンクリーゼ)

緊急疾患です!!
すぐに治療をしないと命に関わります!!

輸液療法
アジソンクリーゼの状態だと血圧も下がっていて血管を見つけるのも大変です。
ただちに血管を確保して大量の静脈輸液をする必要があります。
とにかく、輸液をして血圧を上げて循環を保つようにします。

アジソン病を疑っていて、1時間の猶予があるのならば輸液療法と同時にACTH刺激試験を行い、1時間後の採血が終わってから糖質コルチコイド製剤の投与をします。
もしも、1時間も待てない状態であればデキサメサゾンという糖質コルチコイドを投与します。これはACTH刺激試験に大きく影響しないためです。
続いて、電解質異常(高カリウム血症、低ナトリウム血症)を補正するようにします。低血糖や低カルシウムがある場合はそちらの治療も必要になります。

とにかく緊急疾患です。命を助ける治療が必要になります。

家でできる事

アジソン病の犬は、維持治療で安定している場合でも

ストレスには要注意です。

薬により硬質&糖質コルチコイドが補われているため、普段の生活をする上では何の問題もありません。
健康な犬ではストレスがかかった際には大量の糖質コルチコイド(コルチゾール)が分泌されて、そのストレスに対応しようとします。
しかし、
アジソン病の犬ではこの急な変化に対応できる糖質コルコイド(コルチゾール)を分泌する事ができません。そのためストレスにより調子を崩してしまいます。

  • 病院の診察に行く
  • 家に来客がある
  • 花火大会がある
  • 旅行に行く

などストレスがかかるようなイベントが予定されている場合は、
糖質コルチコイド(コルチゾール)つまりプレドニゾロンを普段より多く内服する必要があります。
2(〜10)倍の量を飲んでいただく事が必要です。

吐いている、下痢している、食欲がないなど消化器症状がある場合も量を増やす必要があります。

まとめ
  • 調子が良かったり悪かったりを繰り返す
  • 元気がない、痩せてきた場合はアジソン病も考える
  • 確定診断にはACTH刺激試験(ホルモン検査)
  • 治療にはホルモン剤の生涯投与が必要
  • ストレスがかかるイベントには要注意

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