犬がハァハァしてあらい呼吸が続いている時は熱中症かもしれません。
犬の熱中症は死亡率が50%を超える恐ろしい病気です。
でも、熱中症は人が注意すれば防ぐことができる病気でもあります。
ある意味、熱中症は人による人災ということです。
下のグラフは熱中症の発生を表すグラフです。
8月にピークを迎えますが、5月の段階で4月の4倍に急増しています。
しっかり勉強して熱中症予防をしましょう。
もくじ
ヒトの熱中症、イヌの熱中症
熱中症は、
高温・多湿の環境下で、
体内の水分や電解質のバランスが崩れたり、
体内の調節機能が働かず様々な症状を引き起こす疾患
です。
日本救急医学会では熱中症の重症度を下図のようにⅠ〜Ⅲ度に分類しています。
Ⅰ度は軽症群とされ、めまい、失神、立ちくらみ、筋肉痛、筋痙攣(こむら返り)を伴い、意識障害はありません。通常は安静にして水分と電解質を経口的に補給することで改善します。
Ⅱ度は中等症群とされ、頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感があります。意識障害や肝・腎機能障害、血液凝固障害は認められません。
入院治療が必要で、脱水や電解質異常があるため体温管理、安静、十分な水分とナトリウムの補給、状態によっては点滴を行います。
Ⅲ度は重症群で、意識障害、全身性痙攣などの中枢神経障害、肝・腎機能障害、血液凝固障害などが認められます。体温は低い場合もあるので注意が必要です。
従来、“熱射病(heat stroke)”と呼ばれていたものはⅢ度に相当します。
犬の場合は上記のような分類はありません。
多くの場合、高体温(41℃以上)・中枢神経障害がおこっているものを“熱中症”としています。
自覚症状を訴えない犬の場合、
軽度の熱中症では飼い主様が気づかずに過ごしているのではないかと思います。
つまり、『熱中症かな?』と気付いた時はかなり重度であると認識すべきです。
犬の熱中症 ≒ 人のⅢ度熱中症
と考える必要があります。
海外の報告では、犬の熱中症の死亡率は50%を超えるものもあります。
熱の放散:熱を逃す方法
熱は高温側から低温側へ伝わっていき、両者の温度が等しくなると、熱移動(伝熱)しなくなります。
動物は次のような方法で熱を放散しています。
- 熱放射:放射(放熱)とは、熱が放射線(電磁波)によって運ばれる現象のことです。熱ふく射(ふく射)ともいいます。犬の近くにいると体温を感じますよね。コレがそうです。太陽やストーブから暖かさを感じるのと同じです。
- 熱伝導:熱伝導(伝導)とは、熱が物質よって運ばれる現象のことです。原子・分子の格子振動の伝播や自由電子の移動によって、熱が運ばれていきます。犬が冷たい床でベタァ〜と寝ている時は体温が冷たい床に伝わっていきます。
- 対流:対流(たいりゅう)とは、熱が、温度差によって生じた流体(液体や気体)の移動によって、運ばれる現象のことです。体に風を受けていると涼しく(寒く)なりますが、風が熱を奪っていくからです。
人も犬も60〜70%は熱放射・対流によって熱を放散しています。
羊は夏に毛刈りをしますが、これも熱の放散を効率よくさせるためです。
フサフサの毛があっては熱放射も対流もできずに体内に熱がこもってしまいます。
(逆に冬場ではこのフサフサの毛のおかげで体温が逃げずに寒さから体を守ります)
気温が体温を上回るようになると、この3つの熱移動(熱放射・熱伝導・対流)はできなくなります。
そこで重要になるのが4つ目の熱放散である“蒸散”です。
蒸散は水が蒸発する際に熱を奪う性質(気化熱)による熱放散です。
人も犬も約30%を蒸散による熱放散に頼っています。
ただし、蒸散の仕方には人と犬では違いがあります。
人の場合の蒸散は、汗をかくことがメインになります。
暑いとたくさん汗をかきますよね。汗をかくことで蒸散による熱放散をしようとしています。
汗には2種類ある!!
汗は皮膚にある汗腺から分泌されます。
この汗腺には2種類あるんです。
1つは『エクリン腺』と言います。
エクリン腺は人では全身の皮膚に分布していて無味無臭の汗を分泌します。
このエクリン腺は毛穴とは別に独立して皮膚に開口して汗を分泌しています。
もう1つの汗腺は『アポクリン腺』です。
人では主に脇の下にあります(他にも、おへそ周り、耳の穴、乳輪、陰部など)。
アポクリン腺は毛根に開口部があり、脂質やタンパク質などを含んんだ白く濁った汗を分泌します。
犬は人のように水のようなサラサラの汗(エクリン腺からの汗)がでないため、
汗による蒸散が難しく、呼吸による蒸散がメインになっています。
その時のベロの色は真っ赤になっています。さらに耳の内側を見てみると赤くなっていると思います。コレは皮膚表面などの血管を広げて血流を多くしているんです。そうすることで、熱放射・熱伝導・対流を効率的にして体温を下げようとしているんです。
高温(自分の体温以上)になると熱放射・熱伝導・対流による熱放散ができなくなり、
高温に加えて湿度が上昇すると、
蒸散効率が下がり熱放散ができなくなってしまいます。
このために高温多湿の夏場に熱中症が多いんです。
鼻ペチャ犬種は要注意
アニコム損害保険株式会社による調査では、フレンチ・ブルドッグやパグなど鼻ぺちゃ犬種(短頭種)では熱中症発生が多いという結果でした。
フレンチ・ブルドッグやパグは寝ている時にイビキをかいていることが多いですが、
これは軟口蓋過長症や鼻孔狭窄といった上部気道の閉塞があるためです。
犬では『呼吸による蒸散』が熱放散には重要になってきますが、
上部気道閉塞があると蒸散が効率的に行えず熱放散ができなくなってしまいます。
また、レトリバー犬種では、喉頭麻痺という病気が多くこれも上部気道閉塞を起こします。
今まで病院で気管虚脱があると言われている犬も要注意です。
熱中症をおこした犬の25〜37%が短頭種、20〜25%がレトリバー犬種との報告もあります。
犬の体温
日本人の平均体温は36.89℃±0.34℃(脇下検温)だそうです。
この調査では全体の約7割にあたる人が36.6℃から37.2℃の間に入ったそうです。
さらに知っておくべきことは、体温には1日のリズムがあり、運動をしていなくても普通は早朝が最も低く、夕方にかけて最も高くなり夜にかけて低くなっていき、1日の体温の差は1℃以内となっています。
一方で犬の平気体温ですが、
小型犬では38.6℃〜39.2℃、
大型犬では37.5℃〜38.6℃
です。人よりも1℃〜2℃高い体温になります。
ただし、興奮しやすい犬ではすぐに体温が上がってしまい正確には測れません。
平熱って何?
人それぞれ、犬それぞれで平熱は違いますが、
日本人の平均が36.89℃、小型犬が38.6℃〜39.2℃、大型犬が37.5℃〜38.6℃とされています。
爬虫類、両生類、魚類などの“変温動物”に対して、哺乳類や鳥類は“恒温動物”と呼ばれていて、周囲の温度に影響されずにほとんど体温が変化しません。
恒温動物では、摂取した栄養の多くを熱(エネルギー)に変換して体温の維持に利用しています。
これを『代謝』と言います。
『代謝』は一種の化学反応なので、温度が高い方が活発に効率よく行えます。
ただし、42℃に近づくと代謝に必要な『酵素』の機能が落ちてしまうとされています。
人では酵素が最も活性化する至適温度が36〜37℃とされています。
このため平熱が37℃前後である可能性があります。
動物種によりそれぞれが持っている酵素に合わせて、代謝がスムーズに行えるように進化してきたのがそれぞれの動物の平熱なのかもしれません。
症状
体に熱負荷が加わった場合、
先ほど言った熱放散システム(熱放射、熱伝導、対流、蒸散)を使って、熱を下げようとします。
効率的に熱放射、対流を行うために
全身の末梢血管を拡張させて皮下の血流を大幅に増量
します。この際に、主要臓器への血流は低下してしまいます。この反応が過剰となれば主要臓器への虚血、ショックを招いてしまいます。
蒸散を増加させるためには呼吸数を増やしパンティングを行います。
さらに、細胞を熱から守るためにサイトカインやヒートショックプロテインの放出します。
それでも間に合わない状態になってしまうのが“熱中症”です。
先ほど言ったように、犬の場合は軽度の熱中症では症状を見分けることが難しいと思います。
ただし、
パンティング(激しい口を開けた呼吸)が続いている場合は、軽度の熱中症の可能性があります。
パンティングでも熱を下げることができない場合、末梢血幹がさらに拡張してショック状態となります。この時点ではまだ意識はあります。
さらにこの状態が続くと、意識障害が出て粘膜は白くなり、体温は下がります。
これは重度なショック状態です。
- あらい呼吸が続いている
- 体が熱い
- ヨダレを垂らして口を開けて呼吸している
- 目や口の粘膜が充血している
- 嘔吐
- 下痢
- グッタリして立ち上がれない
- 意識を失い痙攣を起こしている
診断
大事なポイントは、
その日の犬の行動と環境です。
症状がでるまで
どのような環境(室内?室外?温度は?湿度は?日当たりは?風通しは?など)で生活していたか。
散歩や運動はどの程度したか?
水はいつでも飲める状況だったか?
などです。
熱中症の診断は、自覚症状を訴えない犬では除外診断です。
熱が上がるような病気があるかどうかを検査で確認し、除外していく必要があります。
重度なショック状態では、体温が正常か低くなっていることもあり、さらに診断が難しくなります。
この際に先ほど言った『その日の犬の行動と環境』を知ることが熱中症を診断するポイントになります。
緊急搬送されたダックスフントさん
5月のある土曜日にグッタリしているというダックスフントさんが来ました。
来院した際はショック状態で意識も無い状態でした。
体温は正常くらい。
緊急治療として静脈点滴を行いながらオーナー様に話を聞くと、
『ヨットで海にでている間、停めていた車の窓を開けて犬を留守番させていた』
とのことでした。
海から戻り車内でグッタリしている犬を見つけて病院へ駆けつけたそうです。
ダックスフントさんは、意識障害・血液凝固障害・消化管障害・肝障害と闘い、生死をさまよって数週間の入院治療を行い元気に退院していきました。
治療
パンティングなどで熱中症が分かり、早期に治療(点滴と冷却)ができれば回復して行きます。
しかし、早期治療介入ができないと時間経過とともに重症化して
- 中枢神経障害・発作
- 横紋筋融解
- 血液凝固障害・DIC(播種性血管内凝固症候群)
- 消化管障害
- 腎障害
- 肝障害
- 循環不全・不整脈
- 急性呼吸窮迫症候群
- 敗血症
などが起こり、ショック・多臓器不全に陥り死にいたります。
重要な治療は冷却と点滴です。
冷却は39.5℃を目標に下げるようにします。
体を濡らし、扇風機等で風を当てるようにします。首や脇、股を氷などで冷やすのも効果的です。
全身の表面を急激に冷やしてしまうと、皮下の血管が収縮してしまうことで熱放射・対流の効率が下がってしまうので注意が必要です。
抹消血管が拡張して、血圧が下がりショック状態になっているため、積極的に静脈点滴を行い血圧を維持する必要があります。
冷却と点滴、
それ以外にも様々な臓器障害が起こっていることから集中治療が必要になります。
家でできること
気象条件を把握する
犬に留守番させる日中はどんな天気なのか?
一緒にドライブに出かける時は?
知っておくことで、万全の準備をすることができます。
暑い時期には熱中症が多いのはイメージできますが、湿度や日射も一緒に考える必要があります。
気温・湿度・風・日射/輻射などの周辺熱環境を組み合わせた指標
『暑さ指数:WBGT(Wet Bulb Globe Temprature)』
というものがあります。これは1954年にアメリカで熱中症予防を目的に提案された指標です。
最近ではテレビの天気予報でも見ることがありますし、環境省熱中症予防サイトでも発表されています。
また、アニコム損害保険株式会社では犬のための独自の熱中症指標を作り『犬の熱中症週間予報』をインスタグラム等で発表しています。参考にするといいと思います。
家での留守番はエアコン必須です
『このくらいの気温なら大丈夫』
という油断は禁物です。
熱中症の発生場所の約70%が『家の中』ということです。
室温が22〜25℃、
湿度50〜60%くらいに保てるようにエアコンを使用してください。
飲み水もいくつかたっぷりと用意する必要があります。
もしもケージやサークルで過ごす場合は、留守番中に日が当たらないようにする必要があります。
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地面を触ってみる!!
散歩の際にも注意が必要です。
熱の太陽が照り付けると、アスファルトも熱くなります。
地面を触ってみるととても熱くなっていることが分かるはずです。裸足では歩けません!!
犬は暑いアスファルトの上で、照り返しの影響も強く受けます。
ウェザーニュースの調べでは、
アスファルトが55℃になっている時、犬の高さでは気温40℃になっているとのことです。
散歩に行く前に
地面を直接触ってみてください!!
散歩に行くなら、日の出前・日の落ちた夜にしましょう。
優しさ、ワンタッチ!!
散歩する時の役立ち品
日も落ちたし、アスファルトを触ってみても熱くないし大丈夫!!
夏の散歩は短時間ですませるようにしましょう。
あとは散歩グッズの準備です。
アスファルトも場所によって熱い場所が残っているかもしれません。
嫌がらないのであれば靴をはかせるのも効果的です。
クールウェアやクールバンダナも効果的です。
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飲料水と、もしもの場合に体やクールウェアにかけるための水も準備しましょう。
保冷機能のあるランチバックを散歩バックとして使えば冷たい水を運べますよね。
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風を送るうちわや扇子があるとさらに便利です。
車の注意
ドライブをする際は必ずエアコンをつけて、車内を冷やしましょう。
犬がいる場所がしっかり風が当たるのか、冷えているかを確認してから出発です!!
クレート内は暑くなってしまうことがあります。凍らせたペットボトルをタオルで包んで入れておくのも効果的です。
JAF(日本自動車連盟)の調査によると、
気温35℃の炎天下に駐車した車内の熱中症指数は、窓を締め切った状態でエンジン停止後、
わずか15分で危険なレベル
に達したということです。
短時間だから大丈夫というのは間違いです!!
さらに、同じ35℃の炎天下に駐車した車内温度の調査では、
『窓開け』
の対策をしても車内温度の上昇を防ぐことができませんでした。
爽やかなドライブシーズンでも危険です!!
また、4月の最高気温が23℃であった過ごしやすい日に行った調査では、
ダッシュボード付近:70.8℃
車内温度:48.7℃
フロントガラス付近:57.7℃
という結果がでています。車内に置いてあった炭酸飲料の缶が破裂していたとのことです。
外気温29℃、湿度90%の環境で密閉された車内での犬の生存可能時間は48分との報告もあります。
熱中症かな?と思ったら
パンティング(あらい呼吸)が続いている場合は熱中症かもしれません。
- まずは涼しい場所に移動し、休ませてください
- 次に体を冷やしてあげてください(体を濡らして風をあててあげましょう)
- 自分で水が飲めるのであれば飲ませてあげましょう
- それでも落ち着かない場合は病院へ連絡しましょう
病院に電話連絡を入れ指示を仰いでください。
病院へ向かう際にも車はエアコンをきかせて、全身を水で濡らしたり、氷などで首や脇を冷やすようにします。
ある報告では、病院に行く際に積極的に体を冷やした犬の死亡率が19%だったのに対し、冷やさなかった場合は49%であったとされています。
いかがでしたか?
皆さんが熱中症のことを理解して、十分な予防・対策をすれば、熱中症はなくすことができる病気です。