『おしっこが多いし、水を飲む姿をよく見る』って時は腎臓病かもしれません。
3頭に1頭の猫が腎臓病に罹患するとされています。
猫の慢性腎臓病がどんな病気か一緒に勉強していきましょう。
この記事では症状・診断までです。
治療・自宅でできる事は次の記事にします。
もくじ
症状
- 水をよく飲む
- おしっこが多い
- 食欲不振
- 嘔吐
- 便秘
- 体重減少
- 元気が無い
- 毛ヅヤが悪い
オシッコが多い(尿量が多い)時の原因として多いのは、フードの変更、糖尿病、腎臓病などですが、腎臓病がダントツです。今回は腎臓病の中でも慢性腎臓病について勉強していこうと思います。
猫は病気があっても症状を隠します。さらに慢性腎臓病はゆっくりゆっくり進行していくために症状が分かりにくいと思います。元気があるように見えても体の中では病気が進行しているんです。
そこで、ご自宅での尿量の増加、飲水の増加を注意して観察していただく必要があります。
猫に腎臓病が多いことは昔から知られており、
10歳以上の猫の30〜40%が慢性腎臓病だといわれています。
『腎臓は尿を作っている』という事はみなさんご存知と思います。ホルモンを産生したり、血圧を調整したり、実は腎臓は様々な機能を担っています。
- 老廃物の排泄
- 水分の調節
- 電解質(ミネラル)のバランス調節
- 酸塩基平衡のバランス調節
- 造血ホルモンの分泌
- 血圧の調節
- ビタミンDの活性化 など
猫の慢性腎臓病の原因
猫の慢性腎臓病では初期には糸球体疾患、腎盂腎炎、アミロイドーシス、多発性嚢胞腎、尿路閉塞、腎毒性物質、感染症、腫瘍、高カルシウム血症、腎低形成など様々な原因で腎機能が障害されます。
その後、糸球体高血圧、糸球体肥大による糸球体硬化、タンパク尿による尿細管間質障害、慢性的な低酸素による尿細管障害のためさらに腎機能が低下していきます。
腎臓は代償能力が高い臓器で傷んだ細胞があれば他の細胞がカバーします。そのために血液検査で異常が検出される頃には正常な細胞は25%まで減っています。
猫の慢性腎臓病の症状
腎臓の機能を先ほど話しましたが、様々な原因で腎機能が障害されると脱水します。
これは、
『水分を調節する』という機能が低下したために、飲んでいる量よりも尿がたくさん出てしまうためです。この脱水という症状がもっとも多い症状です。
『造血ホルモンを分泌する』という機能が低下する事で貧血も起こります。
しかし、貧血はかなりゆっくり進行していくために体が貧血に対応してしまい、相当貧血が進まないと症状としては分かりにくいです。
『血圧を調節する』という機能が低下すると高血圧となります。高血圧が重度で継続すると網膜への影響のため失明してしまったり、心臓や中枢神経への影響も出てきます。
老廃物が排泄できなくなったり、ミネラル・酸塩基平衡バランスが調節できない事で食欲が無くなって痩せていきます。さらに吐き気が出たり元気がなくなります。脱水が進むと便も硬くなり便秘傾向になります。
家でできること
猫を病院に連れて行かなくても、尿だけ持っていき検査してもらうこともできます。
気軽に検査できるので3ヶ月に1回位のペースで検査するのがいいですね。
定期的な尿検査のすすめ、自宅でおしっこを採取するコツ
中年(6〜7歳)以降に腎臓病が増えてきます。
積極的に病院で尿検査をしてもらいましょう。尿検査では多くのことが分かりますが、『尿比重』というのを測定する事で尿が濃いのか薄いのかが分かります。
トイレでおしっこをする猫の場合、固まらないタイプ(おしっこが通過して下に落ちる)の砂を利用する事でトイレの床に溜まったおしっこを回収できます。
トイレにペットシーツを利用している場合はそれを外すか、ペットシーツを裏返してビニールの部分を上にする事で尿が回収できます。
その他の方法としては、猫が尿をするときに多めのテッシュペーパーやガーゼを置いてそこに尿を吸収させる事で絞って尿を回収します。
回収した尿は密閉容器に入れて病院へ持っていきましょう。
自宅での飲水量の測定もすぐにできることです。
いつも飲む容器が決まっている場合は簡単です。空いたペットボトルに水を入れておき、そこから猫がいつも使っている容器に水を入れます。容器にはいつも一定量の水を入れることにしておけばペットボトルを見ることで1日にどのくらいの量が減ったか大体わかります。
診断
中年期以降の猫がオシッコが多い、飲水量が多い場合は慢性腎臓病かもしれません。定期的な尿検査で尿比重が薄い場合も慢性腎臓病の可能性があります。検査をお勧めします。
- 身体検査
- 血液検査
- SDMA
- ホルモン検査
- 尿検査
- レントゲン検査
- 超音波検査
- 血圧測定
身体検査
身体検査では鼻から尻尾の先まで全身をチェックします。
動物は症状を言うことができません。
『先生、腎臓病っぽいんで診てください。』
なんてことはありません。
なんの病気が隠れているのか全身を詳細にチェックして探っていきます。
慢性腎臓病の場合、眼や口腔粘膜、皮膚の状態で脱水と分かることが多いです。また、痩せていたり毛艶が悪く毛がバサバサとしています。猫の場合は触診で腎臓を触ることができます(太っている猫は難しいです)。
腎臓は左右それぞれソラマメのような形をしていまが、慢性腎臓病の場合、左右で大きさが違かったり、腎臓の表面がボコボコしていたりします。便秘のために硬い便が分かることもあります。
血液検査
血液検査でも何か病気が隠れていないかを探っていきます。
慢性腎臓病であるとクレアチニン、尿素窒素が指標になります。ただし、腎臓は代償能力が非常に高く腎機能の75%が喪失するまではこれらの指標は正常値にあります。言い換えると、クレアチニン、尿素窒素が異常値になっているときは正常な腎臓が25%しか残っていないということになります。
SDMA(対称性ジメチルアルギニン)
“SDMA”というのは、腎臓のバイオマーカーの1つです。
昔から測定されているクレアチニンでは、腎機能の75%が失われるまで数値が上昇しませんでしたが、
このSDMAでは、腎機能が40%失われた時点で上昇することが分かっています。
早い場合は、25%の喪失でも上昇することがあります。
また、クレアチニンは筋肉の分解産物であるため筋肉量の影響を受けますが、SDMAはこの影響を受けないためにより優れた指標とされています。
加齢に伴ってSDMAの高値の割合が増加するとされていて、
1〜5歳では10%、6〜9歳では13%、10〜11歳では17%、12〜13歳では24%、14では33%、18以上では最大67%の割合でSDMAの上昇がみられます。
ホルモン測定
甲状腺機能亢進症という病気も高齢の猫に多い病気の1つです。こちらの病気でも痩せていたり、毛艶が悪くなったり、高血圧が見られます。慢性腎臓病と併発していないかをチェックする必要があります。
尿検査
医学の父:ヒポクラテスの時代より尿検査は行われています。
色調、臭気、透明度のチェックは昔も今も変わらず大事です。
比重、pH、尿糖、尿蛋白、潜血などのチェック、顕微鏡で細胞、円柱、細菌、血球、結晶のチェックを行います。
特に大事なのが尿比重です。
腎臓では毎日、毎時間、毎分、常に血液が濾過(血液から不要な物質をこしとる)されています。
糸球体で濾過された尿(原尿)は、人では1日に約150リットルにもなります。
実際の尿は1.5リットル程度ですから、99%は再吸収されることになります。
つまり尿を濃くして出しているということです。
これを尿濃縮能と言います。
尿濃縮能を検査しているのが尿比重です。
猫の正常な尿比重は1.035〜1.060ですが、1.035以下である場合は尿の濃縮能が低下していると判断され、1.008〜1.012では慢性腎臓病の可能性が高いということになります。
尿濃縮能は腎機能の67%が失われると低下すると言われています。
ただし、SDMAが高値の25%の猫では濃縮能(糸球体濾過量;GFR)が維持されていると報告されています。
猫の場合、わずかな尿タンパク/クレアチニン比(UPC)の上昇でも予後の悪化に関連しているため、尿試験紙での検査でタンパクが陰性でもUPCを測定すべきとされています。
レントゲン検査、超音波検査
腎臓以外の臓器もしっかりチェックして併発疾患を検出します。
腎臓の形態、サイズ、腎臓腫瘍、腎嚢胞、水腎症などのチェックを行います。
血圧測定
猫の慢性腎臓病では高血圧になっていること多いです。
高血圧の場合、脳、眼、心臓、腎臓に障害を引き起こすとされているためにこれらの臓器のチェックも必要になります。
IRISによる猫の慢性腎臓病ステージング
国際獣医腎臓病研究グルーブ International Renal Interest Society(IRIS)では血液検査結果から病期分類(ステージング)をしています。
ステップ1.
空腹時の血漿クレアチニン濃度・SDMAに基づいて分類
猫が十分に水和している状態で2回以上測定
ステップ2.
タンパク尿と血圧に基づいてサブステージ分類を行う
予後
50頭の慢性腎臓病の猫の研究では、腎臓療法食を食べていた猫は通常食を食べていた猫より2.4倍長生きしたとの報告があります(中央生存値633vs264日)
J Small Anim Pract. 2000 Jun;41(6):235-42. Survival of cats with naturally occurring chronic renal failure: effect of dietary management. Elliott J
まとめ
・おしっこが多い、飲水量が多いときは慢性腎臓病を疑う
・中年以降になったら定期的に尿検査を行う
・飲水量をできる限り測る